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実験医学 2008年8月号 Vol.26 No.13
ミトコンドリアの遺伝機構とエネルギー代謝制御
低酸素適応から疾患発症まで

  • 林 純一 /企画  中田 和人 /企画 
  • 定価 1800円+税
  • 2008/07発行
  • B5
  • 125ページ
  • ISBN 9784758100380
  • 在庫あり

エネルギー産生の中枢であるミトコンドリアについて,遺伝機構や融合・分裂といった細胞内ダイナミクスから,ミトコンドリア異常によるさまざまな疾患発症,低酸素適応とがんとの関与まで,研究の最前線をご紹介!

ミトコンドリアの遺伝機構とエネルギー代謝制御


《企画者のことば》すべての真核生物はミトコンドリアを生体エネルギー産生の拠点にすえている.近年,ミトコンドリアの機能異常がわれわれの健康にさまざまな形で重大な影響を与えているとして,にわかに世間の注目を集めるようになってきた.しかし,現在も常識とされているこのコンセプトの一部が,根こそぎ崩壊する例があちこちで起こりつつある.本特集では最近生じたこのワクワクするようなリニューアルの現場と,ミトコンドリア研究の最近の進展を紹介する.

特集

ミトコンドリアの遺伝機構とエネルギー代謝制御

低酸素適応から疾患発症まで
企画/林 純一/中田和人(筑波大学大学院生命環境科学研究科)
企画者の言葉【林 純一】
ヒトゲノムの解読とともに疾患の治療標的となる多くの鍵分子が発見されてきている.近年,配列以外のゲノム修飾・ヒストン修飾(エピゲノム)が細胞の発生分化,老化と癌化にかかわることも明らかとなった.メタボリックシンドロームにおいてもゲノム解析に加え,エピゲノム解析による新規の治療標的分子も発掘され,今後この分野の進展が期待される.膜表面からのシグナルである創薬の分野では大変重要なGタンパク質共役型受容体や核内受容体でも新たな知見がでてきている.また,近年糖代謝においてWntシグナルの重要性が認識されている.Wntシグナルもまた細胞表面の受容体LRPや7回膜貫通型受容体(Fz)を介して,核内へと入力され,ヒストン修飾などを介して転写を制御する.本特集では,メタボリックシンドローム克服に向けた,最新のトピックを紹介する.
概論-エネルギー代謝ネットワーク中枢の実像に迫る【林 純一/中田和人】
哺乳類におけるミトコンドリアボトルネック効果【米川博通/設楽浩志/Liqin Cao】
ミトコンドリアゲノム(mtDNA)のもつ遺伝的特徴に,ホモプラズミー(homoplasmy)がある.ホモプラズミーとは,細胞には多数のmtDNA 分子(体細胞では1,000 分子程度)存在しているにもかかわらず,個体内ではたった1種類のm t D N A 分子種しか存在しないという現象で,「同質性」ともよばれている.このホモプラズミーが成立するためには,ミトコンドリアボトルネック効果とよばれる遺伝機構が作用していることが仮定されており,なかでも「初期発生のある時期にmtDNA のコピー数の急激な減少が起こる」ことが主な原因として提案されてきた.われわれはこれに対して,マウスの雌性生殖細胞系列および初期胚のさまざまな発生段階にある細胞1個あたりのm t D N A のコピー数を測定してみたが,コピー数が著しく減少したというような事実がなく,すなわち「今までの通説」とは別の遺伝機構があることを提唱した.これに対して,最近「m t D N A のコピー数の急激な減少」によるボトルネック効果の存在が発表され,ミトコンドリアボトルネック効果をめぐる論争が再燃した.
トコンドリアの融合と分裂による生命機能制御【石原直忠】
細菌の共生を起源とするミトコンドリアは,細胞内で融合と分裂をくり返しながらダイナミックにその形態を変化させている.われわれはミトコンドリアが自身の活性を感知してその形態を変化させるメカニズムを解明した.内膜のGTPase・OPA1 はミトコンドリア膜電位に依存してタンパク質切断を受けることで,融合活性を制御している.このミトコンドリア構造変化は細胞内でのミトコンドリアの品質管理に寄与していると考えられる.今後,生体内でのミトコンドリアの融合・分裂の詳細が理解されることにより,代謝制御を含む臨床への応用が期待される.
ミトコンドリアゲノムに起因するエネルギー代謝異常と病態発症【中田和人/林 純一】
生物の生命活動にとって安定的な生体エネルギーの産生と供給は必須であることから,生体エネルギーの枯渇は重篤な病気の引き金となりうる.近年,ミトコンドリアゲノム(mtDNA)の突然変異によるATP 産生異常が多様な病気の原因になる可能性が次々と示唆されるにつれ,m t D N A の突然変異を起点とした病態発症に関する研究が大きな広がりをみせている.本稿では,特に突然変異型のmtDNA を含有するモデルマウスを紹介し,それらが発症する多様な病態について解説したい.
エネルギー代謝転換とがん―解糖系亢進と悪性化は関係するか【石川 香/竹永啓三/林 純一】
がん細胞には,正常細胞とは異なるいくつかの共通した性質がある.そのなかの1つに,一部のがん細胞は,効率のよい酸化的リン酸化ではなく,わずかなA T P しか得られない解糖系にエネルギー合成の軸足をシフトさせているという点があげられる.一見非効率的にみえるこの代謝系の転換が,がん細胞悪性化の1つのきっかけになっていることが,次第に明らかになってきた.一方,われわれは最近,ミトコンドリアDNA(mtDNA)の突然変異に起因し,解糖系の亢進とは無関係に起こるがん細胞悪性化のプロセスを解明した.がん細胞の代謝とその変化に注目することで,新たな診断・治療法の開発が可能になってきている.
水素分子による新しい概念の抗酸化治療法と予防医学【太田成男/大澤郁朗】
ミトコンドリアは活性酸素種の発生源である.水素分子(H2)は適度な還元力をもち,有害な活性酸素種を選択的に細胞内で還元消去した.また,水素分子を溶解した培養液で細胞を培養すると酸化ストレスによる細胞障害性は軽減された.虚血再灌流により急激な酸化ストレスを与えたとき,2%程度の水素ガスを吸引させることでモデル動物の組織は保護された.さらに,水素分子を水に溶かして動物に自由摂取させるとモデルマウスの動脈硬化や,身体拘束マウスの認知機能低下は抑制された.これらにより水素分子の治療効果と予防効果が示唆された.
寄生虫のライフサイクルにみるダイナミックなエネルギー代謝転換【北 潔】
生化学の教科書にはミトコンドリアは「細胞のエネルギー工場」として説明され,酸化的リン酸化のしくみに関する最新の知見が詳細に記載されている.しかし,生物の特徴はその多様性にあり,エネルギー代謝も例外ではない.酸素を用いてA T P を合成する酸化的リン酸化は好気性生物に限られたものであり,酸素を利用できない環境に生息する微生物や寄生性生物などはそれぞれ特殊な代謝系によってA T P を合成している.なかでも寄生虫はその宿主内と自由生活性からなるライフサイクルにおいて,代謝系をダイナミックに変動させ,大きく異なる生息環境に適応している.

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