
【対談】井村裕夫,川上浩司
特別対談「基礎と臨床の相互理解が導く日本のメディカルサイエンス」(実験医学2008年4月号より)
近年のバイオサイエンスの発展にはめざましいものがあります.革新的な研究成果が報告されるなか,基礎研究の臨床応用に対する期待と実現への動きが高まってきています.
そこで本対談では「実験医学」編集顧問であられる井村裕夫先生と,本年度より本誌の新たな編集委員となられた川上浩司先生をお招きし,バイオサイエンスと医学の架け橋を目指した国内外の動きと今後の課題についてお伺いいたしました.いま注目されている研究成果から,臨床応用に向けた戦略と取り組み,さらには次代のサイエンスを担う若手教育の動向まで,幅広い視野のご見識をご紹介いただきます.(編集部)
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編集部 近年,生命科学と医学を巡る状況は激変していますが,これからの進展を考えるうえでどのような点が重要になってくるのでしょうか?
井村 私は2つの重要な点があると思っています.
1つ目は,基礎研究の新しい成果(シーズ)がどんどん生み出されていることです.例えば,非常に多くの生物のゲノムが明らかになってきており,ポストゲノム研究が急速に発展してきています.このことは,生命科学だけではなくて,医学にも非常に大きなインパクトをもたらしつつあります.
2つ目は,病気の予防や治療に対する必要性(ニーズ)です.例えば,世界の先進諸国では,急速に高齢化が進んでいますね.アジアでも,近い将来の急速な高齢化は間違いありません.今後,高齢者に多い病気をどうやって解決していくかというニーズが生じてきます.
これからの生命科学では,「シーズ」と「ニーズ」の両方を結び付けていくことが非常に重要になると思います(図).
川上 私もまったく同じだと思っています.分子生物学を使っていろいろなことが理解できるようになってきて,それでは,次に何をしようというときに重要になってくることは基礎研究と臨床研究をどうやって結びつけるかだと思います.
例えば,分子生物学を医療に役立てるためには証拠が必要ですよね.その証拠には,基礎研究によって明らかにされた分子メカニズムだけではなくて,臨床研究による立証も必要だと思っています.ゲノミクス,プロテオミクス,いわゆるオミクス研究においても,現在は臨床研究に応用する方向に向かいつつあると思います.ここ1,2年,世界でそういうものが急速に注目を浴びて,基礎の研究者だけではなくて,臨床の研究者も参入した形で動きだしましたね.