![第2回 地球から細胞が生まれた1 1.地球の誕生 [分子生物学講義Web中継~生物の多様性と進化の驚異]](images/banner03.gif)
本WEB連載を元にした単行本が8月下旬発行予定です!詳細はコチラです.
第2回 地球から細胞が生まれた1
『生物は自然発生しない』ということは,パスツールの実験の結論として有名です.しかし,生物は一度は地球上で自然に発生したはずです.パスツールは間違っていたのか.そんなことはありません.直接に原典を確かめていないところは申し訳ありませんが,パスツールはちゃんと『自分のやった実験の短い期間の範囲では…』と断っているのだそうです.今回は,地球上の生命がどのように誕生しどう展開したかという全体の経過(第2回図1)のなかで,比較的初期のところ,特に太古の地球で有機化合物がどのように生まれたのかについて,最新の知見を紹介します.
太陽の周りを回っていた大量の微惑星が集合して,他の惑星とともに地球が生まれたのが46億年前と考えられます.地球が誕生した後しばらくは,激しい微惑星の落下が続いて,地球表面はドロドロに溶けた溶岩の海,マグマオーシャンでした.溶解した地球では,比重の大きい鉄が中心に沈んでコアを作り,その上をマントルが被った2層構造になりました.微惑星の落下が少なくなると,表面が冷えて固まりはじめました.オーストラリアの堆積岩中に含まれているジルコンという鉱物粒子が44億年くらい前の最古のものとされています(注1).
地球表面が冷却すると,やがて地球表面から放出された水蒸気が水になって地表に溜まり,海ができました.水の起源については,この時期にたくさんの彗星(多くは氷の塊)が地球に降り注いで,それに大量に含まれた水が元になったという考えもあります.いずれにせよ,水の惑星の誕生です.陸地を構成する主要な岩石は花崗岩です.花崗岩は海がないとできず,その存在は海があった間接的証拠といわれます.みつかっている最古の花崗岩は約40億年前のものであり,そのころには海ができていたと思われます.
また,土砂が海底で堆積してできる堆積岩についても,最も古いものは40億年前のものといわれるなど,40億年前には海ができていた証拠がいろいろ存在しています.
38億年前には,海底に噴出した溶岩が固まってできる枕状溶岩が残っていますし,38億年以降には堆積岩が世界のあちこちから発見されるので,38億年前以降には海があったことは間違いありません.大量の炭酸ガスの存在で大気圧が高かったために,初期の海は100℃をはるかに超える高温だったはずです.しかし,海ができると,それまで60気圧ほどもあった空気中の炭酸ガスは海水に溶け,カルシウムやマグネシウムと結合して炭酸塩として沈殿することで空気中の濃度が急速に低下し,数気圧にまで減少したといわれます.それでも現在と比較すれば,とんでもなく高い炭酸ガス濃度には違いありませんが,温室効果は急速に低下して,地球はますます冷却しました.大気圧が1気圧に下がるまでは,依然として海水温は100℃を超えたままでした.
生命の誕生にとって重要なことは,海の誕生によってはじめて水を溶媒とした化学反応が可能になり,その結果,有機化合物の合成が可能になったことです.海の誕生が40億年前だったとすると,細胞が誕生する(最初の化石がみつかる)35億年前までたった5億年しかかかっていません.生命の痕跡は38億年前にあるとの証拠が正しければ,1~2億年しかたっていないのかも知れません.
(注1)ただ,これを含む堆積岩ができたのはずっと後のことです.地球が生まれた46~40億年前くらいまでの,岩石の証拠が残っていない時代を冥王代といいます.ただ,激しい隕石の落下とそれによるマグマオーシャンは40~38億年くらい前に再び起きた(後期重爆撃)との考えもあり,冥王代を38億年前までとする考えもあります.いずれにせよ,冥王代は岩石の記録が乏しい時代で,生命誕生以前の時代です.

井出利憲/著
定価 4,800円+税, 2010年8月発行