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第2回 効果的な教育を実践する秘訣
〜Bloom's TaxonomyとARCSモデル

高瀬義祥,三浦太郎(とやま総合診療専攻研修プログラム)

総合診療科研修では『教育』を実践できるスキル修得が求められているのを皆さんはご存知でしょうか.そう,医学教育は総合診療と親和性が高いスキルなのです.総合診療医は患者を治すことだけでなく,後進を育て,周囲のスタッフの成長を促し,診療に還元するスキルが求められているのです.当プログラムには医学教育に情熱をもっている専攻医や指導医がたくさんいます.今回は専攻医である私自身が経験した事例を通じて,医学教育のTipsを2つご紹介したいと思います.

Tips 1:Bloom's Taxonomyで教育目標を設定する

Point

  • 教育目標は認知・情意・精神運動領域の3つに分ける.
  • 3つの分類のそれぞれでレベルを設定する.

皆さんも1度は教育に関わる経験があるのではないでしょうか.例えば医学生が見学に来たときや初期研修医がローテートしたとき,または健康教室の講演を頼まれたときなどです.しかし教育を意識せずに「なんとなく」行った経験はないでしょうか.それでも上手くいって「ウケる」ときもあれば,思ったような手ごたえが得られず「ウケない」ときもあり,その差が何にあるのか考えたこともあるかもしれません.一体ウケる教育とウケない教育の差は何でしょうか.

ここで1つめのTipsとしてBloom's Taxonomy(ブルームのタキソノミー)という概念を紹介します.Bloomが開発した教育目標の分類学ですが,後にAndersonらによって改良され,改訂版Revised Bloom's Taxonomy(改訂版タキソノミー)として知られています1).具体的には教育目標を「認知・情意・精神運動領域」つまり「あたま・こころ・からだ」の3つの領域に分け,さらにそれぞれについてレベル分けをしています(図).

図 改訂版タキソノミー

例を用いて認知領域について解説します.例えば虫垂炎の診療では,① 虫垂がどこにあるかなどを“記憶”し,② 虫垂炎に典型的な症状を“理解”し,③ 目の前の患者さんに“適応”できるまでが基本的な部分です.さらに,④ 採血や腹部CTを行い,その他の鑑別疾患について“分析”し,⑤ Alvarado score(虫垂炎のclinical decision rule)の有用性と限界について“評価”し,⑥ 診療セッティングに合わせた自分なりの診療アルゴリズムを組み立て,“創造”できるという段階まで行くと,高度な水準であることがわかります.

勉強会の組み立てにおいてもこれは重要です.学習者によって知識を記憶できるまでを目標にするのか,それとも実際に診断・治療ができるまでを目標にするのかの設定を明確にすることで,対象となる学習者のニーズに合った「ウケる」勉強会の企画をすることができるはずです.

先日,筆者は改訂版タキソノミーを用いて,院内看護師を対象としたフィジカルアセスメントに関する勉強会を行いました.認知領域だけでなく,情意領域,精神運動領域についても目標設定を行い,効果的な勉強会にすることができました.成功の秘訣は「教育目標」の設定にあるかもしれません.

Tips 2:ARCSモデルで学習意欲を高める

Point

  • ARCSモデルを用いて学習者のモチベーションアップにつながる工夫を検討する.

さらに学習者の意欲を高めるためにはどのようにすればよいでしょうか.教育目標の設定ができても,実際にやってみると学習者の眠りを誘う内容になってしまったり,学習者の満足感やモチベーションアップにつながらなかったりしたことはないでしょうか.

ここで2つめのTipsとして「ARCS(アークス)モデル」をご紹介します.ARCSモデルとは,John M. Kellerが提唱した学習意欲の問題と対策を4つの要因に分類・整理する方法です2).学習意欲の課題について,①Attention(注意)②Relevance(関連性)③Confidence(自信)④Satisfaction(満足感)の4つのチェックポイント(作業質問)を設けて,各項目をクリアする工夫がなされているかを確かめるのです(表).

表 ARCS モデル

具体例を用いてARCSモデルを解説します.私たちは2017年に「第29回学生・研修医のための家庭医療学夏期セミナー」で介護保険に関するワークショップを行いました.そのとき,学習者の意欲を上げるためにARCSモデルを用いてワークショップの構成を以下のように考えました.

  1. ① Attention:講義形式ではなく,チームを組んでブースを回るワークショップ形式にする.寸劇をとり入れて症例の雰囲気を感じてもらう.
  2. ② Relevance:介護保険の認定から受給までの流れを各ブースで体験してもらう.
  3. ③ Confidence:各ブースで学習者自身に提示症例の介護認定やサービス利用のスケジュールを組み立ててもらう.
  4. ④ Satisfaction:ワークショップを受けただけにならないように振り返りの機会の提供,持ち帰りプリントを冊子にして形として学習成果が残るようにする.

このようにARCSモデルを活用し,教育の構成を練ることで,当日は楽しくかつ明日から使える知識を学べるワークショップに変容することができました.ARCSモデルを使って教育の構成を練ることで,質の担保された教育をするコツがつかめるはずです.

まとめ

今回は専攻医が実践を通じて学んだ医学教育についてのTipsを2つ紹介しました.総合診療医を志す以上は教育を実践する機会が必ず訪れます.せっかくなら楽しくて身につく教育ができる総合診療医をめざしてみませんか.

文献

  1. A taxonomy for learning, teaching, and assessing: A revision of Bloom's taxonomy of educational objectives.(Anderson LW&Krathwohl DR., eds.), Allyn and Bacon, 2001
  2. 『学習意欲をデザインする: ARCSモデルによるインストラクショナルデザイン』(Keller JM /著,鈴木克明/監訳),北大路書房,2010

Profile

高瀬義祥(Yoshiaki Takase)
とやま総合診療専攻研修プログラム 南砺家庭・地域医療センター 兼 平診療所所長心得
医学教育がspecial interestの総合診療専攻医です.今は山間部の村の診療所と町の診療所を行ったり来たりしながら研修しています.富山県南砺市には連携が密な病院と診療所があり,総合診療を実践するにはもってこいのフィールドがそろっています.一緒に学び合い,北陸の総合診療を盛り上げましょう!
三浦太郎(Tarou Miura)
富山市まちなか診療所/とやま総合診療医養成プログラム
在宅医療の傍ら,医学生,初期研修医,家庭医療専攻医,在宅医療フェロー,多職種連携の教育にかかわっています.
一緒の場で楽しく学び合う場づくりに喜びを感じています.ぜひ,富山の楽しい学びの場に皆様も見学・研修にいらっしゃってください!
  • 第3回は5月25日に公開予定です.どうぞお楽しみに!
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