みんなでシェア!総合診療Tips

第5回 島医者は島が育てる
離島診療所で学ぶ家庭医療

平良 亘,本村和久〔沖縄県立中部病院総合診療プログラム(島医者養成プログラム)〕

沖縄県立中部病院の研修プログラムの特徴は,医師が1人しか配置されない離島診療所での研修があることです.外来診療を中心に,救急・時間外診療も行い,在宅医療の提供や自治体と連携した健康増進や予防医学活動,さらに学校医の役割も担います.

これらの業務を,限られた医療資源を利用し1人で行うことで,その島の医療を担う「島医者」になります.

沖縄の離島診療所を経験した医師の間では「島医者は島が育てる」という言葉がよく使われます.今回は,実際に島医者である私が島民や島の環境から学んだことについて皆さんにシェアします.離島診療に興味をもっていただければと思います.

Tips 1:島医者は島が育てる

離島では「1人での診療」を「限られた医療資源」の環境下で行う必要があり,その環境をふまえ,離島診療で必要な5つのコンピテンシー1)図1となっています.この環境下では,コンピテンシーの「1.全科にわたる知識と技術」が必須となり,また「2.離島の特性(交通手段や家族背景)を考慮したトリアージ能力」が必要とされ,日々の診療のなかで養成されていきます.この2つの能力は特に緊急搬送時において重要となります.

図1 離島の1人診療所で必要なコンピテンシー

また,診療所に通院する患者さんと同じ「島民」として生活するため,「3.島の資源を把握し活用する能力」が自然と養成されます.島の数ほど文化があるといわれており,赴任した島ではその島独自の地域行事に参加し,同じ生活圏に住むことで診療所の外で患者さんである島民と触れ合います.そのなかで,島の文化によってどのようにして島民の人格や考え方が形成されていくかを肌で感じることができます.離島という狭いコミュニティーのため,介護施設や学校,役場などの方々とすぐに顔見知りの関係となり,卒後4〜5年の医師ではありますが,周囲と協力しながらリーダーシップを発揮し,お看取りや高齢者の介護問題,不登校児童への介入など,幅広く経験していきます.

Tips 2:自分の医療レベルがその島の医療レベル

日々の離島診療を行い,困難な事例を周囲の人々と協力して解決し,島民とその島の文化に接していくことで島民との信頼関係が形成されます.島民からの信頼を感じ自らの仕事に達成感を得るのと同時に,島唯一の医師として責任感と緊張感を強く持つようになります.離島赴任を終えた先輩からは「自分の医療レベルがその島の医療レベル」との格言が語り継がれています.気管挿管,胸腔ドレーン挿入など救急対応においてバックアップはなく,自分がやらなければ目の前の島民を救うことができません.慢性疾患であっても自分に見落としがあれば,悪化して自ら診療することになり,何より島民へ負担をかけてしまいます.島の医療レベルを維持・改善するためには,自らの健康を管理し自己の医療の質を管理することが必要であり,そのため「4.島唯一の医師としてのプロフェッショナリズム」が養成されます.離島に1人という環境下で医療の質を保つために自己研鑽を行うともに,電話やメール,SNSを利用して基幹施設にいる指導医・専門医に相談し,Web会議システムを利用して同期,指導医との振り返り・ポートフォリオ勉強会・臨床研究勉強会を行っています.医師は一人ではありますが,サポート体制は充実しており不安を感じることはありません.

また,「5.島全体の健康を支える」存在として予防接種(小児,高齢者)や学校医を行うだけではなく,住民への医療講話を行っています.離島においては住民の人数の変動が少なく,地域に1つの医療機関であるため,データ収集がしやすくポピュレーションアプローチが可能となります.

以上のように離島では周囲の支えのもと,急性期対応,慢性期疾患管理,予防医療などを幅広く行う環境があるため責任を強く感じます.しかし,自分の医療レベルの向上がその島の医療レベルを向上させることにつながることがモチベーションとなり,日々の診療に励んでいます.

Tips 3:離島からの緊急搬送ではいつも迷う

離島診療所は島唯一の医療機関であるため,時間外の急患診療にも対応しています.

通常の外来診療と並行して急患に対応しなければならない場面もあります.そのため,離島において通常の家庭医療の現場と最も異なるのが緊急疾患対応の力であり,緊急疾患への対応ができなければ離島勤務は困難2)となります.図2に緊急搬送時に考慮すべきことを示します.搬送手段としては,ヘリ搬送と船搬送に分けられます.船搬送は天候にも左右され,また搬送中は医師の付き添いがない(船搬送に付き添うとその間,長期に渡り,島に医師が不在となる)ため,医師付き添いが必要な緊急患者はヘリ搬送となります.

図2 離島からの緊急搬送時に考慮する点

搬送時に一番迷うのは,急性腹痛などの診断はつかないが重篤化が予想される場合です.重症感があり現在のバイタルサインは保たれているが,原因がわからないといった場合は,診療所での経過観察中に重症化しないかどうかを予測し搬送を判断しています.しかし,特に夜間であれば,搬送が必要と判断してもすぐ緊急に搬送するべきかどうか,または診療所で経過観察を行い翌朝に搬送するべきか悩むことが多くあります.その際には医療資源の問題も考える必要があり,医師と看護師の2人しかいない状況で入院に準じた治療を行えるかどうか,酸素残量は観察中もつかどうかを考えています.また,特に高齢者の搬送時には患者さんとその家族背景を考えて搬送を行うかを迷うことがあります.高齢者の急変時であれば,自分の生まれ育った島ではなく,搬送先の病院で亡くなってしまう可能性もあります.そのため,本人が最期をどう過ごしたいと言っていたかを考え(日頃の診療から意識して聴取し),また搬送せず離島で亡くなった際に家族は納得するかなど患者さん本人とその家族の希望を考慮する必要があります.これらの事項を初期対応(時には挿管を医師一人で行い)やヘリ搬送の手続きと同時進行で考慮しなければならないため,離島医師にとってヘリ搬送時には精神的負担が大きくなります.そのため重症化を防ぎ,ヘリ搬送を減らすためにも日頃の診察,予防医療の活動がより重要となります.

Tips 4:Go to the people/人々のなかへ4)

離島に赴任すると医師も患者さんと同じ島に住んでいる島民となります.患者さんと生活環境を共有しつながりをもち島民のなかに入っていくことで,島民のなかでの役割がたまたま「医師」であるだけであり,他の人と同じように自分の役割を全うすることが,同じ島に住む人のためになることを実感できます.私も離島に赴任してから,子どもの成長をともに見守り,人生の最期をともに過ごし,残された家族や友人とその後もともに過ごすことで,島の命の循環を感じ「ゆりかごから墓場まで」の家庭医療の醍醐味を感じています.

文献

  1. 柴田綾子,他:離島の1人診療所で必要なコンピテンシーに関する質的研究〜若手医師が直面した課題から〜.へき地・離島救急医療学会誌,15:16-22,2017
  2. へき地・離島医療における家庭医の役割.「新・総合診療医学 家庭医療学編 第2版」(藤沼康樹/編),pp145-151,カイ書林,2015
  3. 與那覇忠博:離島診療所からの救急搬送.月刊地域医学,31:605-609,2017
  4. 石川信克:「Go to the People」の源流を訪ねて.国際保健医療,27:111-117,2012

Profile

平良 亘(Wataru Taira)
沖縄県立中部病院総合診療プログラム(島医者養成プログラム)所属
沖縄県立八重山病院附属波照間診療所
離島診療を語るにはまだまだ未熟ではありますが,その魅力が皆さんに少しでも伝わればよいなと思います.私自身,コンピテンシーのすべてを完璧にできているわけではなく,日々島で過ごすことで教えてもらい,助けてもらっています.今回の掲載を通して離島診療は1人では成り立たないことを改めて実感しました.
本村和久(Kazuhisa Motomura)
沖縄県立中部病院 総合診療科
島医者養成プログラムの責任者の仕事を基幹病院で行っていますが,本当は離島診療所で仕事がしたいとずっと思っています.しかし,平良先生のような素晴らしい医師が離島診療所でひとり頑張っているのを知ると私の出番はないとも思います.
  • WEB限定の第6回は8月に公開予定です.どうぞお楽しみに!
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