みんなでシェア!総合診療Tips

第8回 日々是女性診療
~そうだ,母を診よう

年森慎一,岡田唯男(亀田家庭医総合診療専門医プログラム)

皆さん,女性診療と聞くとどんなことを考えますか? 妊婦健診,更年期障害,月経困難症,子宮頸がん検診….「なんか難しそうだな」「婦人科診察できないし」などの感想をもたれる方も多いのではないでしょうか.また,地域の人口構成や医療状況などの影響を受けるため,「そもそも診療する機会がない」という方も多いと思います.日本では専門医へのアクセスが良いため,実際問題を抱えている女性は産婦人科を受診することが多いでしょう.

本稿を読んで,「産婦人科医でなくても女性診療でできることがありそうだな」と少しでも思っていただければ幸いです.今回は「女性医療を提供する機会がないのか?」「婦人科診察は必須なのか?」「簡単にできることはないのか?」の順に沿って話を進めていきたいと思います.さまざまなライフステージに立つ女性がいますが,前提として今回は生産年齢(15歳以上65歳未満)を念頭に話を進めます.

基本のTips:「そうだ,母を診よう」

私から皆さんにお伝えする基本のTipsは「そうだ,母を診よう」です.できるだけシンプルなTipsを心がけました.この言葉に込めた思い,そして実践について解説したいと思います.

Tips 1:女性医療を提供する機会を逃さない

本邦の外来受療率は乳幼児と65歳以上の高齢者で高くなる二峰性であり,生産年齢層の医療機関への受診が少ないということがわかっています1).しかし,若い年代は本当に受診しないのでしょうか.

ライフキャリア・レインボー(図1)という考え方があります2).人生にはさまざまな役割があり,多かれ少なかれいくつかの役割をみな担っており,ライフステージごとに比重が変わっていくといわれています.特に女性においては,求められる役割が男性と比べて多く,変動も大きくなります.皆さん自身や友人,患者さんのことを思い返してください.想像は難しくないと思います.生産年齢層の女性は「患者」として受診する頻度は少ないですが,実はこの役割の多様さゆえ,子どもや親の受診,予防接種,健診など,むしろ「誰かの付き添い」として私たちの前に姿を現すことの方が多いのです.そう考えると,実は思いのほか「医療機関に訪れている」ともいえます.しかし,医療を提供する側の視点からすると,患者さんの診療に集中し,いつの間にか付き添いとしての女性はフレームアウトしてしまっています.

図1 ライフキャリア・レインボー

私たちは目の前の問題「前景」に気をとられ,得てしてその「背景」を見落としがちで,実は貴重な機会を見過ごしているのかもしれません.まずは,気づくことからです.その気づきを待っている人がきっといます.「そうだ,母を診よう」これが合言葉です.

Tips 2:ライフステージに応じた健康支援を実践する

日本プライマリ・ケア連合学会 女性医療・保健委員会は,女性医療を「女性特有の疾患や性差による病態の違いを考慮しながら,女性が生涯を通して健康な生活を送れるよう,ライフステージに応じて支援する医療」であると述べています(図23).つまり,女性医療は「産婦人科診療をしましょう」ということではなく,「ライフステージに応じて,生涯健康な生活を送れる支援」をすることが大切なのです.健康とは「身体・心理・社会的に満たされた状態(世界保健機関定義)」をいいますから,精神的・社会的健康に寄与するものも含まれます.先述のとおり,多くの女性は各ライフステージで比重の大きい役割によって生活が大きく規定されています.しかし,妊娠出産・子育て・介護などのために,一人の大人として自己実現に向かえない不全感や周囲との関係性に悩みを抱えているケースもあります.ライフステージごとに直面するだろう健康や人生の課題に気を配り,その声に気づき,声かけができる,そんなかかわり方でもよいのではないでしょうか.

図2 ライフステージに応じた女性の健康支援

Tips 3:ここから始める! 3つの女性診療

それでは婦人科診察のいらない,簡単にできる介入を3つほどご紹介したいと思います.声かけだけで救えることもたくさんあるのです.

① 子宮頸がん検診の推奨

1つ目は子宮頸がん検診を推奨することです.有名人の罹患などで乳がん検診が周期的にとりざたされますが,子宮頸がんは欧米では「マザーキラー」と呼ばれており,より若年者で推奨されるのは子宮頸がん検診です(米国予防医療専門委員会では21〜65歳で推奨4)).子宮頸がん検診の受診で侵襲性子宮頸の危険性を著減させ,ヒトパピローマウイルス検査を併せることで死亡率の減少も認められています5).しかし,2016年の調査によると本邦での子宮がん(子宮頸がん)検診受診率は42.4%(過去2年での受診率)と低く,特に20代女性の受診率は低く6),チャンスを逃さず推奨していくことで,若い世代を守ることができます.

② マタニティブルース・産後うつ病の発見

2つ目はマタニティブルース・産後うつ病の発見です.褥婦の30%程度にマタニティブルース,5〜10%程度に産後うつ病が出現するといわれており7),珍しくないことがわかります.産後は身体的変化に加え,家族構造が劇的に変化します.子どもが第一になり,母として,また1人の大人としての悩みを打ち明けられず悩んでいるケースに出会います.また,核家族化や地域社会のつながりの希薄化などの社会変化のなかで,子育てのうえで孤独感を感じている母親も少なくありません8).両親,特に母親の健康状態は家族機能,子どもの成長に影響を与えるため,母親のメンタルサポートが重要なのです.子どもの症状が軽いにもかかわらず,夜間救急などの不要な受診は,母親のメンタルの不調が隠れているサインかもしれません.小児診療や乳幼児健診の際に「何かお困りのことはありませんか」と声をかけられるといいですね.

③ 母子手帳の活用

3つ目は母子手帳の活用です.母子手帳は小児の予防接種歴確認時や乳児健診の際に確認することが多いと思います.しかし,母子手帳には「子」だけでなく,妊娠経過(血圧や尿糖),風疹抗体価など,「母」の情報も多く載っています.妊娠糖尿病は将来の糖尿病発症率が高いことなども知られており7),妊娠はその女性の未来を映す鏡ともいえます.また,家族背景などの情報も記載されており,育児の悩みや家族計画の相談など,家族を支援するきっかけとしても活用することができます.

最後に

いかがでしたか.少しでも「これならできるかも」と思っていただければ幸いです.もっと知りたい方は,日本プライマリ・ケア連合学会 女性医療・保健委員会の提唱する「お母さんに優しい医師/医療機関になるためのジェネラリストの手はじめ12ヵ条」9)を,ぜひご参照ください.

今回のTipsは「母」や「女性」に限ったことではありません.さまざまなライフステージで背景として現れる家族に対して,ケアの目を向けられるのは家庭医・総合診療医ならではの視点ではないでしょうか.皆さんの気づきで,救える幸せがあるはずです.「そうだ,母を診よう」この言葉を念頭においてみてください.

文献

  1. 中央社会保険医療協議会:中央社会保険医療協議会 総会(第345回)議事次第 外来医療(その1).厚生労働省,2017(外部サイトPDF)
  2. Super DE:A life-span, life-space approach to career development. Journal of Vocational Behavior, 16:282-298, 1980
  3. 日本プライマリ・ケア連合学会:委員会一覧・各委員会の役割 女性医療・保健委員会 通称“チームPCOG”.(外部サイト)
  4. USPSTF. U.S. Preventive Service Task Force.(外部サイト)
  5. Peirson L, et al:Screening for cervical cancer:a systematic review and meta-analysis. Syst Rev, 2:35, 2013
  6. 厚生労働省:平成28年 国民生活基礎調査.Ⅲ 世帯員の健康状況.2017(外部サイトPDF)
  7. 「産婦人科診療ガイドライン ―産科編2017」(日本産科婦人科学会,日本産婦人科医会/編),pp26-28,pp239-242,日本産科婦人科学会事務局,2017
  8. 内閣府:平成29年版 子供・若者白書.149,2017
  9. 岡田唯男(文責), 柴田綾子, 水谷佳敬 : 一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会(JPCA)女性医療・保健委員会(チーム・PCOG). 資料 女性/妊婦/お母さんに優しい医師/医療機関になるためのジェネラリストの手はじめ12ヵ条. プライマリ・ケア, 3(3), 12-15(2018年秋号,通巻9号), 2018(外部サイト)

Profile

年森慎一(Shinichi Toshimori)
鉄蕉会 亀田ファミリークリニック館山
家庭医療専門医
家庭医をしていると,「人生」という「長編物語」のなかの「診療」というワンシーンを観ているんだなぁ,と感じることがあります.亀田家庭医総合診療専門医プログラムで学び,その「長編物語」のどの場面にも関わることのできる楽しさ,尊さを知ることができました.ご興味のある方は是非遊びに来てください!
岡田唯男(Tadao Okada)
鉄蕉会 亀田ファミリークリニック館山
家庭医療専門医(日本,米国),公衆衛生学修士
人口の半分は女性,「年齢,性別,臓器などを問わずあらゆる日常の健康問題,健康相談に対応する」ジェネラリストである以上,本領域だけを「聖域」のように除外する正当性はどこにもありません.
  • 第9回は11月末に公開予定です.どうぞお楽しみに!
こちらもぜひご一読ください!

Gノート 2018年10月号 Vol.5 No.7
いつもの診療に“ちょこっと”プラス!外来でできる女性ケア

柴田綾子,城向 賢,井上真智子/編
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