実験医学 2010年4月号 Vol.28 No.6

細胞の個性に応じて機能する

TGF-βファミリー

多様な疾患のmaster regulator

宮澤恵二，伊東　進／企画

2010年03月19日発行
B5判
127ページ
ISBN 978-4-7581-0058-8

定価：1,980円（本体1,800円＋税）
在庫：なし
PDF版：あり

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《企画者のことば》

多細胞生物では，さまざまな細胞間情報伝達物質により個々の細胞の増殖・運動・分化が適切に制御されている．TGF-β（transforming growth factor-β）ファミリーのサイトカインはこのような物質の代表例であり，初期発生から成熟個体の恒常性維持にいたるまで，多彩な生体プロセスの調節に関与している．また，その作用の異常が疾病につながる例も多く報告されている．TGF-βファミリーのサイトカインを標的とした治療手法の開発にあたっては，おのおのの作用の場でのシグナル伝達およびその調節機構の理解が重要である．

初期発生から成熟個体の恒常性維持まで，細胞間情報伝達の中心的役割を担うTGF-βファミリー．細胞のコンテキストに応じ，その作用を様々に変えるメカニズムと，難治疾患の有力標的として注目される現状を紹介．

特集

細胞の個性に応じて機能する
TGF-βファミリー
多様な疾患のmaster regulator

企画／宮澤恵二，伊東　進

■サマリーを表示する

概論—TGF-βファミリー研究の新しい流れ【宮澤恵二／伊東　進】

多細胞生物では，さまざまな細胞間情報伝達物質により個々の細胞の増殖・運動・分化が適切に制御されている．TGF-β（transforming growth factor-β）ファミリーのサイトカインはこのような物質の代表例であり，初期発生から成熟個体の恒常性維持にいたるまで，多彩な生体プロセスの調節に関与している．また，その作用の異常が疾病につながる例も多く報告されている．TGF-βファミリーのサイトカインを標的とした治療手法の開発にあたっては，おのおのの作用の場でのシグナル伝達およびその調節機構の理解が重要である．

TGF-β誘導性EMTを介した癌細胞の浸潤能獲得【齋藤正夫／堀口華奈／白木原琢哉】

EMT（上皮間葉転換）は上皮細胞が間葉系様細胞に形質変化する現象で，近年癌細胞におけるEMTが特に注目されている．TGF-βはEMTを強力に誘導する因子の１つであり，個体発生のみならず線維症や組織修復，そして癌におけるEMTに深く関与している．細胞がEMTを獲得するプロセスは多段階に分かれており，おのおのにおけるTGF-βの作用機序も徐々に解明されつつある．そこで，本稿ではTGF-βが誘導するEMTの分子機構を中心として，われわれの研究結果を含め，最近の話題を概略する．

腫瘍原性能の維持におけるTGF-βシグナル【生島弘彬／宮園浩平】

癌細胞集団における，幹細胞に類似した形質をもつ細胞（癌幹細胞）の存在は以前から「予想」はされてきたが，近接学域における知見の蓄積，証明に必要な技術の開発等が相まって，近年さまざまな腫瘍組織においてその存在が相次いで証明された．同時にそれが旧来の癌治療法の不備を説明しうること，そして新規抗癌剤の有望な標的となることが提起され，現在は癌幹細胞の性状に関する研究が世界各国で行われている．TGF-βは腫瘍発生・進展における大きな役割と同時に，正常幹細胞の維持機構に対する関与も知られており，癌幹細胞においても重要な働きをもつことが報告されてきている．

TGF-βによるヘルパーT細胞の分化制御【市山健司／吉村昭彦】

TGF-βは免疫抑制あるいは抗炎症性サイトカインとして古くから知られている．しかしその作用機構は意外と知られていない．最近TGF-βにはヘルパーT細胞の分化を制御する機能があることが明らかにされた．特にFoxp3＋抑制性T細胞（Treg）を産み出す能力があることが発見されて，免疫抑制やホメオスタシス維持のメカニズムの１つとして注目を集めている．しかし一方でTGF-βはIL-6と共存すると炎症性のTh17細胞も誘導する．TGF-βによるTregの誘導はSmad2/3に依存するが，Th17の誘導はSmad2/3非依存性である．このような分子機構の解明により免疫制御の新たな方法が開発されることが期待される．

血管新生におけるTGF-βファミリーの役割と疾患【伊東史子／伊東　進／加藤光保】

遺伝子改変マウスの解析，および疾患の原因遺伝子の解析からTGF-βシグナルが血管新生に必須であることが示されている．血管新生に関与するサイトカインは多数報告されているが，TGF-βは，血管内皮細胞だけでなく血管平滑筋細胞の分化・遊走にも関与し，さらに血管内皮細胞に作用して血管新生を正負両面から調節している．本稿では，遺伝子改変マウスの解析から得られた結果を中心に，血管新生におけるTGF-βシグナルの役割とシグナル異常がもたらす疾患について解説する．

TGF-βファミリーと骨・関節疾患【池川志郎】

TGF-βファミリーの機能異常は，さまざまな骨・関節疾患に関係する．近年，相関解析を用いたゲノムからのアプローチにより，Camurati-Engelmann病やMarfan症候群のような稀な単一遺伝子病だけでなく，変形性関節症や椎間板ヘルニアなどの一般集団で頻度の高い多因子遺伝子病の病因・病態にもTGF-βファミリーが深く関与することがわかってきた．本稿では，これら骨・関節の多因子遺伝子病の病因・病態とTGF-β系の関係について概説する．

BMPシグナル伝達異常と疾患【別府秀幸】

BMPは，TGF-βファミリーに属し，哺乳類の初期発生のみならず，多くの臓器の器官形成過程においても重要な役割を担っている．また，成体での恒常性維持や骨折などの創傷治癒にも深くかかわっている．したがって，発生段階あるいは成体でのBMPシグナルの異常は，先天性心奇形，骨格異常，血管異常，癌（前立腺癌や大腸腫瘍），腎疾患など多彩な疾患をひき起こす．本稿では，特発性肺動脈性肺高血圧症，先天性心奇形，大腸腫瘍，進行性骨化性線維異形成症について最近の知見を紹介し，また遺伝子改変マウスを用いた疾患モデルマウスの結果からヒト疾患の病態解明への糸口を探ってみたい．

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