実験医学2022年1月号 特集「夜明けを迎えたヒト免疫学〜臨床検体からヒトの免疫応答機構の実態を知り、疾患制御に挑む」

ヒト免疫系の機能ゲノム学

藤尾圭志
特集

夜明けを迎えたヒト免疫学

ヒト免疫系の機能ゲノム学
藤尾圭志

ヒトの主要な疾患の多くに免疫系が関与することがわかってきている.ゲノムワイド関連解析(g en om e w i d e
association study,GWAS)が進展し,疾患の感受性多型が同定されてきており,それらと関連する免疫系の修
飾が同定できれば,疾患の原因となる免疫異常の解明が可能となる.遺伝子多型の遺伝子発現への作用を集約し
た情報である expression quantitative locus(eQTL)は,遺伝素因と生命現象の重要なリンクである.われわれ
が構築した ImmuNexUT などの,ヒト免疫担当細胞の大規模 eQTL データベースは高い有用性が期待される.
ゲノムワイド関連解析(genome wide association study,GWAS)
,疾患感受性多型,
expression quantitative locus(eQTL)
,エピゲノム制御

キーワード

はじめに

本稿ではヒト免疫系およびヒト疾患の病態解明に関連
する機能ゲノム解析の展開を概説してみたい.

ヒトの主要な疾患として,動脈硬化をはじめとする
循環器疾患,メタボリックシンドローム,悪性腫瘍な
どが存在するが,これらの多くに免疫系が関与するこ

1 遺伝子多型が作用する遺伝子を調べる
eQTL 解析

とがわかってきた.もし疾患の原因を形成する免疫異
常が同定できれば,疾患の治療や予防につながると考

免疫介在性疾患とは,免疫細胞の異常な活動,自己

えられる.しかしながら疾患でみられる免疫異常には

を構成する成分への過剰反応,極端な炎症反応,ある

さまざまな要素が密接に関連しているため,免疫系の

いは外来抗原の適切な認識ができなくなること,など

機能研究だけでは,原因の特定と病態の理解は困難で

が原因となる疾患群である .これまでに G W A S によ

あった.そのようななかで,2000 年代にゲノムワイド

り,免疫介在性疾患において約 3,000 の疾患感受性多型

関連解析(genome wide association study,GWAS)

が同定されている 2).これらの多型の多くは ,何らか

が進展し,疾患の感受性多型と感受性遺伝子の同定が

の遺伝子に作用してその影響を発揮すると考えられる

可能となった .疾患感受性多型は原因の一部と考え

が,同定された疾患感受性多型はあくまで染色体上の

られることから,疾患感受性多型と関連する免疫系の

位置情報であり,実際にどの遺伝子に作用しているか

修飾が同定できれば,疾患の原因となる免疫異常を突

を判断することは,GWAS 情報だけからでは困難であ

き止めることが可能になる.疾患感受性多型の遺伝子

る.従来は疾患感受性多型の最も近傍か,機能的に疾

発現やタンパク質機能への影響を評価するアプローチ

患と関連する遺伝子が疾患感受性遺伝子と推測されて

は機能ゲノム解析とよばれ,近年大きく進展している.

きたが,必ずしも正確とは言えなかった.疾患感受性

1)

Functional genome analysis of human immunology

Keishi Fujio:Department of Allergy and Rheumatology, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo(東京大
学大学院医学系研究科内科学専攻アレルギー・リウマチ学)

実験医学 Vol. 40 No. 1(1 月号)2022

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この記事の掲載号

実験医学2022年1月号
夜明けを迎えたヒト免疫学

上野英樹/企画