実験医学2022年1月号 特集「夜明けを迎えたヒト免疫学〜臨床検体からヒトの免疫応答機構の実態を知り、疾患制御に挑む」

多発性硬化症・視神経脊髄炎のバイオマーカーと治療標的の探索

山村 隆
特集

夜明けを迎えたヒト免疫学

多発性硬化症・視神経脊髄炎の
バイオマーカーと治療標的の探索
山村 隆
ヒト免疫学(Human Immunology)は,健康の維持や疾病の予防・治療に直結している.研究目標を達成するに
は,健常者・患者検体および臨床情報を用いた解析が必須であるが,これこそがヒト免疫学の推進力になってい
る.多発性硬化症(multiple sclerosis,MS)の研究では,ヒト T 細胞研究が 1980 年代後半にはじまり,さまざ
まな試行や臨床試験によって多数の治療薬が開発された.その多くがヒト免疫学の成果であり,他のさまざまな
領域の進展に寄与している.本稿では,M S や視神経脊髄炎におけるバイオマーカーと治療標的の探索に関する
われわれの研究成果を紹介し,未解決の問題や研究手法などについて問題提起を行う.
キーワード

精密医療,バイオマーカー,多発性硬化症,視神経脊髄炎

はじめに

病期や病勢に相関する免疫因子の探索によって免疫病
態の解析が進み,治療薬も多数開発されている.疾患

純系マウスや遺伝子改変マウスを扱うマウスの免疫

や病勢に関連したバイオマーカーは,それ自体が治療

学とは対照的に,ヒトの免疫学では,多様な遺伝的背

標的になる場合もあるので,魅力ある研究対象となっ

景をもつ人間を対象とする.マウスでは容易な介入研

ている.また,同じ病名で括られる患者群であっても,

究や組織・臓器リンパ球の解析が困難であることも

病態,予後,治療反応性が多様であることを踏まえて,

あって,基礎研究者の多くはヒト免疫学から距離を置

バイオマーカーを活用した個別化医療(personalized

いてきた.しかし,純系マウスで得られた結果は,マ

medicine)あるいは精密医療(precision medicine)の

ウス免疫学の一面のみを捉えている場合があり,また,

意義が強調される時代になっている.本稿では,MS お

ヒトとマウスの違いも無視できない.技術的な進歩に

よび MS 関連疾患の視神経脊髄炎 (neuromyelitis

も支えられて,近年ヒト免疫研究が発展しているのは

optica,NMO)における研究成果について,われわれ

当然のことであろう.

の近年の成果を中心に紹介する.

ヒト免疫学の発展において,神経系自己免疫疾患で
ある多発性硬化症(multiple sclerosis,MS)の研究は
大きな役割を果たした . M S は中枢神経系に多発した

1 視神経脊髄炎の免疫学

炎症性病巣のために,視力低下,四肢のしびれ,歩行

❶	症候学の限界と抗アクアポリン4 抗体測定の意義

障害,認知機能障害などの多彩な症状を生じる難病で

M S は複数の中枢神経炎症病巣に起因する症状 (脳

ある.患者と健常者の免疫細胞の比較研究や,患者の

幹症状 ,高次脳機能障害 ,視力障害 ,下肢麻痺など)

Exploratory study for identification of biomarkers and therapeutic targets in multiple sclerosis and
neuromyelitis optica
Takashi Yamamura:Department of Immunology, National Institute of Neuroscience, NCNP(国立精神経・神経医療研究セ
ンター神経研究所 免疫研究部)

実験医学 Vol. 40 No. 1(1 月号)2022

35
続きは本誌にて御覧ください.
この記事の掲載号

実験医学2022年1月号
夜明けを迎えたヒト免疫学

上野英樹/企画