実験医学2022年1月号 特集「夜明けを迎えたヒト免疫学〜臨床検体からヒトの免疫応答機構の実態を知り、疾患制御に挑む」

ヒト制御性T細胞:自己免疫病を中心に

坂口志文
特集

夜明けを迎えたヒト免疫学

ヒト制御性 T 細胞:
自己免疫病を中心に
坂口志文
制御性 T 細胞は免疫自己寛容,免疫恒常性の維持に不可欠の T 細胞群である.その発生,分化,機能に重要な遺
伝子の一遺伝子突然変異はヒトの自己免疫病の原因となる.また,自己免疫病の遺伝的感受性を決定する一塩基
多型の多くは,制御性 T 細胞機能分子のエピゲノムの変化を介して遺伝子発現に影響し,さまざまな自己免疫病
に対する遺伝的感受性を決定する.
キーワード

Treg 特異的エピゲノム,Treg 機能異常,自己免疫病,一塩基多型

はじめに

性の維持に働く.一部の T r e g は,末梢,特に腸管粘
膜組織で通常の T 細胞から分化しうる(peripherally-

制御性 T 細胞(regulatory T cell,Treg)は,ヒト

derived Treg,pTreg)
.

の免疫自己寛容,免疫恒常性の維持に必須の免疫細胞

ここ 25 年,さまざまな生理的,病的免疫応答の抑制

群である.実際,Treg の研究は自己免疫病と免疫自己

的制御における Treg の重要性が明らかにされてきた 6)

寛容の研究にはじまる.すなわち,正常マウスから特

(図 1)
.一方,Foxp3,CD25 以外にも CTLA-4 などの

定の T 細胞群を除去すると,ヒトの自己免疫病と酷似

さまざまな Treg 機能分子が同定,解析され Treg 機能

した病変が自然発症し,除去した T 細胞群を補えば発

の理解が進んできた.本稿では,ヒト Treg を中心に,

症を阻止できる ,との実験結果に基づく .そのよう

Treg の発生・機能の分子的基盤,特に Treg 特異的エ

な内在性 Tre g を他の T 細胞群と区別する特異的分子

ピゲノムの成立と維持に関する最近の知見を紹介する.

マーカーの探索から CD25 分子の Treg 特異的高発現が

次いで,Treg 機能の遺伝的異常・変異について,ヒト

見出され,次いで Treg 特異的転写因子として Foxp3

自己免疫病の遺伝的原因,また遺伝的疾患感受性決定

が同定された

因子としての重要性について論じる.

1)

.その結果,Treg はヒトでも他の動

2)〜 4)

物でもFoxp3 + CD25 + CD4 + T 細胞として末梢 CD4 + T
細胞の約 10 %を占め,免疫抑制機能に特化した T 細胞
サブポピュレーションとして定義されるに至った .
5)

1 Treg の発生・分化と機能の分子的基盤,

特に Treg 特異的エピゲノムの成立と維持

内在性 T r e g の大部分は,他の T 細胞と異なり,胸
腺で抑制機能を獲得するまでに分化・成熟した T 細胞

Treg に発現する機能分子のなかでは,Foxp3 とCD25

(thymus-derived Treg,tTreg)として産生され,胸

(IL-2 レセプターα鎖)
,CTLA-4 が重要である.例え

腺から末梢にかけて機能的にも表現型としても安定な

ば,Foxp3 を T 細胞に異所性に発現させると Treg 様の

細胞系譜を形成し,末梢での免疫自己寛容,免疫恒常

免疫抑制活性を賦与できる 2).CTLA-4 は Treg に構成

Human regulatory T cells in autoimmune disease

Shimon Sakaguchi:Experimental Immunology, Osaka University Immunology Frontier Research Center(大阪大学免疫学
フロンティア研究センター・実験免疫学)

実験医学 Vol. 40 No. 1(1 月号)2022

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続きは本誌にて御覧ください.
この記事の掲載号

実験医学2022年1月号
夜明けを迎えたヒト免疫学

上野英樹/企画