実験医学2022年1月号 カレントトピックス

セントロメア進化のパラドックスに迫る:利己的なセントロメアの抑制

久門智祐
Kumon T, et al: Cell, 184: 4904-4918, 2021

セントロメア進化のパラドックスに迫る:
利己的なセントロメアの抑制
久門智祐
染色体の分配という真核生物共通の機能をもつにもかかわらず,セントロメアに結合するタンパク質の進
化は早い .この進化は利己的なセントロメアを抑制するためだと考えられているが ,そのしくみは未知で
あった.本研究では利己的なセントロメアを抑制するモデルを提唱したが,そのモデルに行き着くまでには
当初のモデルの大幅な修正が求められたため,その過程について紹介する.

真核生物のゲノムには個体の適応度を下げてでも増殖

れたが,そのしくみは不明だった 3).さらに,CENP-B

するよう進化してきた利己的な遺伝因子が存在する 1).

はCENP-A やCENP-C と同時に発見されたにもかかわ

適応度が下がらないよう,利己的な遺伝因子を抑制す

らず,遺伝子欠損マウスで生存や生殖に大きな問題が

るしくみも進化し,利己的な遺伝因子とその抑制のし

みられなかったことから ,その機能は謎に包まれてい

くみは常に進化的軍拡競争の状態にある.進化的軍拡

た 2).本研究では CENP-B の機能に加え,利己的なセ

競争はゲノム上のどこでも起こりうるが,セントロメ

ントロメアを抑制するモデルを提唱した .このモデル

アはその一例である.セントロメアは染色体分配の際

の詳細や利己的なセントロメアの解説は現在執筆中の

に動原体が形成される染色体の部位で,ゲノムのダー

総説(Seminars in Cell and Developmental Biology 誌

クマターともよばれる大量のリピート配列が存在する.

に 2022 年掲載予定)に譲ることにして,本記事では当

長らくこのセントロメアのリピート配列の役割は不明

初想定したモデルから現在のモデルに至るまでの紆余

だったが,近年の研究によりそれは利己的な遺伝因子

曲折をその当時のデータとともに紹介することにする.

であることが示唆された

.

1)3)4)

CENP-A,CENP-B,CENP-C とよばれるセントロ
メアに結合するタンパク質が 1985 年に発見され,その

先行研究と当初のモデルから予想される
実験結果

後の研究で CENP-A と CENP-C は染色体の分配に不

卵形成の減数分裂の際,母由来の染色体と父由来の

可欠であることがわかった 2).染色体の分配という真

染色体が対になり,片方が卵へ,もう片方がやがて分

核生物に共通の機能をもつにもかかわらず,CENP-A

解される極体へ分配される.そのため遺伝的に異なる

と CENP-C はとても早く進化しており,セントロメア

母由来と父由来のセントロメアは卵へ分配されようと

のパラドックスとよばれている.セントロメアに結合す

競争をする 1)3).より多くのエフェクター(動原体と微

るタンパク質は利己的なセントロメアのリピート配列を

小管の結合を制御するタンパク質)をよび込んだセン

抑制するように進化したという仮説が 2001 年に提唱さ

トロメアが,より卵へ分配されやすいことが,マウス

Centromere paradox and suppression of selfish centromeres
Tomohiro Kumon:University of Pennsylvania(ペンシルベニア大学)

実験医学 Vol. 40 No. 1(1 月号)2022

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続きは本誌にて御覧ください.
この記事の掲載号

実験医学2022年1月号
夜明けを迎えたヒト免疫学

上野英樹/企画