実験医学2022年6月号 特集「病を「腸」から攻略する マイクロバイオーム創薬」

治療およびイノベーションの手段としての腸内細菌叢移植療法

中原 拓
 特 集 病を 腸 から攻略する マイクロバイオーム創薬

治療およびイノベーションの手段と
しての腸内細菌叢移植療法
中原 拓
健常者ドナーの便から腸内細菌叢を分画し,患者に対して移植することでディスバイオーシスを治療する「腸内
細菌叢移植法(FMT)」は難治性
感染症にはじまり潰瘍性大腸炎,がん免疫治療などさまざまな疾患
で有効性が報告され,治療においても研究においても有用性が注目されている.一方で,生物由来原料を利用す
ることから,ずさんな管理の元で実施されれば感染症など有害事象リスクを否定できない方法でもある.本稿で
は最近の FMT の治療効果や方法論の確立に関連する研究の進展を概説し,治療としてかつイノベーションの源泉
として正しく社会実装されるために必要な安全性や規制フレームワームに関する最新動向を紹介し議論する.
キーワード

腸内細菌叢移植法(FMT),ディスバイオーシス,安全性,規制フレームワーク,
バイオスタートアップ

はじめに

ease:IBD)2)やがん免疫 3)などでも有効性が報告され
ている.特に本邦では,潰瘍性大腸炎に対し,前処理

FMT(fecal microbiota transplantation,腸内細菌

として抗菌薬を投与して患者の腸内細菌叢をリセット

叢移植法,便微生物叢移植法)は健康な腸内細菌叢を

してから FMT を実施する A-FMT〔antibiotic-FMT,

ディスバイオーシス(dysbiosis)を起こしている患者

抗菌薬併用腸内細菌叢移植(療法)〕を,順天堂大学が

の腸内へ移植することで腸内環境を正常化する治療法

2014 年から臨床研究として継続している 4)∼ 6).この項

である.近年のマイクロバイオームサイエンスの大き

ではいくつかの疾患に対する F M T の臨床的意義に関

な進展と,難治性

して概説する.

感染症(recurrent

infection:rCDI)に対するFMT の有効性が報
1)

❶ 難治性

感染症

告 されて以降活性化した多数の F M T 臨床研究報告

CDI は院内感染などで広がる激しい下痢や高熱を伴

が相まって,治療としても研究としても近年大きく注

う感染症である.標準治療として抗生物質が使われる

目を集めている .本稿では FM T の概要と関連する最

が,再発しやすく複数回抗生物質治療が行われること

新の社会動向に関して一端を紹介したい.

がある.その結果,病原菌が薬剤耐性を獲得し難治性
となるケース (rC D I)が全体の 10 %程度存在する .

1 FMT の臨床的意義

rCDI に対する FMT の効果に関する最新のメタアナリ
シス 7)によれば FMT 後 8 週間の非再発率が単回 FMT

FMT は健常人由来の便から分画した腸内細菌叢を患

で 84 %と高い有効性が示されている.米国,英国など

者へ移植する医療技術である(図 1).2013 年に rCDI

では rCDI に対する FMT が治療ガイドラインに記載さ

1)

に対して標準治療を大幅に上回る臨床成績が報告 さ

れている.例えば米国では 2017 年に 48,000 件の FMT

れて以降,炎症性腸疾患(inflammatory bowel dis-

が実施されたと推定される 8).わが国の rCDI 治療ガイ

Fecal microbiota transplantation as a treatment and as a source of innovation
Taku Nakahara:Metagen Therapeutics, Inc.(メタジェンセラピューティクス株式会社)
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実験医学 Vol. 40 No. 9(6 月号)2022
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病を「腸」から攻略する マイクロバイオーム創薬

金 倫基/企画