【対談】中村良和,加藤茂明
特別対談「難治性疾患治療を目指して~医療ニーズと学術研究の接点」(実験医学2009年1月号より)
医学が進歩した現在においても,患者数が少なく研究開発が十分でない「希少疾患」をはじめ,有効な治療法が確立していない難治性疾患が多数存在する.今回,希少疾患治療に取り組む製薬企業,ジェンザイム・ジャパン株式会社代表取締役の中村良和氏,東京大学分子細胞生物学研究所の加藤茂明先生(本誌編集委員)をお招きし,難治性疾患における臨床現場や産業側の医療ニーズ,大学等の基礎研究者の取り組み,治療・克服に向けた問題点や方策について議論いただいた.(編集部)
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編集部 はじめに,難治性疾患をとりまく現状についてお話しください.
中村 難治性疾患は,赤痢や,コレラなど,いわゆる不治の病からはじまっています.現在では,公衆衛生がよくなり,そのような問題はなくなってきています.そこで,ある程度の定義付けをすべきだとのことで,昭和47年から難病が具体的に定義され,123の「難治性疾患」が指定されました.その後,そのなかでも,特に治療が必要なもの,あるいは高額な医療費がかかるものを「特定疾患」として,45疾患が指定されています.このように,難治性疾患は徐々に社会の情勢にあわせて変わってきました.
特定疾患として指定されているのが45疾患ですが,実際それではまだ不十分です.一番最後に認定されたのは平成15年で,最近では疾患が新しく認定されなくなってきています.実はいま,何十種類かの疾患について患者会の方々が認めてもらえるように活動されていますが,なかなか認められていないのが現状です.
編集部 基礎研究者からみて,この状況はいかがでしょうか?
加藤 基礎研究者は,そういう社会の情勢を知らないことが多いと思います.今の若い人は,ゴールが見えない人が多いんです.私は農学部出身なので,人の役に立ちたいという意識があって入ってきてるんですけど,例えば理学部,意外に薬学部あたりでも,何のために研究しているのか,あまりドラマチックじゃない学生・研究者が意外に多いのです.研究をやることにはすごく意味があって,人の役に立つということをわかってほしいと思いますし,実験医学誌を通して伝えるべきだと考えています.難治性疾患には一体どういうものがあって,日本や世界の現状はどうなのか,ということについて若い人に興味をもってほしいと思っています.
編集部 中村社長にとって難治性疾患とは何ですか?
中村 私の夢は,難病がなくなることです.患者会の方もよく「この患者会が解散できるのが夢だ」といいます.
編集部 平成15年以降は全く増えていないということでしたが,いま声が挙がっている疾患としては,例えばどのような疾患がありますか.
中村 例えば,Ⅰ型糖尿病がありますし,子供で肝移植の対象になる胆道閉鎖症があります(表).それから,フェニルケトン尿症,ジストニア,間脳・下垂体障害,魚鱗症があります.シックハウス連絡会という患者会の方が要望されている化学物質過敏症などもあります.おそらく20ぐらいあると思います.
編集部 それらの研究開発には取り組まれていますか?
中村 研究そのものは着手されていると思います.しかし,例えば胆道閉鎖症やⅠ型糖尿病は,移植による治療ですので,ドナーの問題等もあり治療を受けられる方が少ないんです.根本的に薬や,遺伝子治療で治るところまではまだ確立されていません.ただ,そういった研究はもちろんされています.