Kyota Ko,Simon Gillett(東京工業大学英語コミュニケーションプログラム 講師/ベルリッツ・ジャパン)
本コンテンツは,実験医学同名コーナーからの転載,2014年11月に発行された単行本「理系英会話アクティブラーニング」シリーズ(発表・懇親会・ラボツアー編,スピーチ・議論・座長編)からのスピンアウトとなります.イギリス留学中のテツヤが実験医学onlineにも登場!
こんにちは,テツヤです.じつは帰国の予定が決まり,3年間のイギリス留学ももうすぐ終了です!
母校の恩師のツテで,日本のある工業大学の理工学部の助教職を勧められ,応募の結果採用されました.ハリントン教授の研究室での契約が満了してから休む間もなく,すぐ着任できるそうです.第2の故郷のように感じるほど異国の研究室に馴染むことができたので,去るのは寂しい気もします.でもこの研究所で挑戦できることにはすべて挑戦できたと思います.辛いこともたくさんあったけど,この体験の後ならどこでもやって行ける,
I can take anything.
怖いものなんてない
と,そんな自信を確かに感じます.
気がついたら英語も,英語でのコミュニケーションも普段の研究や発表には困らない程度に上達していました.今思うと,3年前なんてひとりでは何もできないも同然だったのに,よく留学を決めたなと思います.
でもまだまだだと感じることもたくさんあります.同僚のヒューの冗談はほとんどわかるようになりましたけど,まだ上手く切り返せないときがあります.発表内容をいつも事前にチェックしてくれるジューンの辛口の批判もしだいに減ってきたけど,いまだに反論の余地のない問題点を指摘されます.自分の今の能力より少しうえを常に求められるということは,とても刺激的で恵まれた環境なんだな,と思います.
3年間で得たものは計り知れないけど,3年間留学しただけでは解決されない課題もたくさん見つかりました.
そのなかでも一番最近直面した課題が「英語で人にものを教える」ということ.
就職先の工業大学の山口教授とインターネット電話で面接をしたときのことです.彼の研究室には常に多くの留学生が在籍していることから研究室内でのミーティングは英語で行うのだと教えてくれました.それに多くの日本の大学はこれからグローバル化をめざしていくため,分野によっては教授が英語で講義ができないといけないそうです.
山口教授は事前に「私との面接の最後に,研究の内容を学生に講義すると思って英語で少し発表していただけませんか」とリクエストされました.
リクエスト通りに研究のさわりを聞いていただいた後,フィードバックとして返ってきた言葉が
Our graduate students will appreciate your lecture very much. However, to be honest, undergrads may fall asleep on you.
うちの院生はあなたの講義を非常にありがたがると思います.でも正直に言うと,学部生は講義中に寝ちゃうかもしれませんね
でした.
専門用語はなるべく避けるように気をつけていたつもりだったのに,僕の発表はまだまだ専門的に聞こえるようです.万人に伝わる話し方って,難しいんだと思います.
山口教授は僕の課題をズバッと言い当てました.それだけでなく,「Well you’ll get a lot of practice at my place. まあ私の研究室でたくさん練習できますよ」と課題解決の道まで示してくれました.
この人ならと思い,具体的にどのような伝え方をすればよりわかりやすくなるのか,山口教授に聞いてみました.いただいたアドバイスは本当に具体的でした.
In other words,...
言い換えれば,…
What I will be talking about next is similar to ...
これからお話しすることは,喩えると…
How many of you here think that ... please raise your hand.
このなかで…だと思う方は手をあげてください
小学生でもわかるように講義ができれば完璧,とのことでした.ハリントン教授のもとで学んだコミュニケーションとは似て非なる考え方にとても興味を惹かれました.
たまらず,山口教授に
Where did you learn all this?
こんなことどこで学んだのですか?
と聞いてみました.教授は
I learned all this from collaborating with communication experts.
コミュニケーションの専門家とのコラボレーションを通して学びました
と教えてくれました.これから働く大学は,理系のコミュニケーションの教育にも重きを置いているようです.
イギリス留学がなければ,きっと山口教授に指摘された課題以前に,もっと基礎的なコミュニケーションでつまずいていたと思います.
留学先の同僚たちやハリントン教授は唯一の日本人の僕に対して何の特別扱いもせず,楽しければ楽しく,必要ならば厳しく,いたって普通に接してくれました.異文化由来の摩擦や発見から多くを学びました.彼らのおかげで,今僕は自分のコミュニケーション能力に自信をもてています.そしてこれからさらにそれを伸ばせると思うとワクワクします.
僕の今度の目標は,研究を続けながらそこから得た知識を多くの人に伝えるコミュニケーション能力を身につけること.Japan, I’m coming home!