頻尿を自覚し,排尿時痛を生じていた10歳代女性4 症例 10歳代後半の女性.2日前に頻尿を自覚し,昨日から排尿時痛を生じていたが,我慢していた.今朝になって急な悪寒戦慄があり,38.5℃に発熱していたため両親に連れられ救急外来を受診した.これまで既往歴はなく,アレルギー歴もない. 来院時の自覚症状は寒気のみであった.血圧128/72 mmHg,脈拍90回/分,呼吸数は20回/分,酸素投与なしでSpO2 97%であった.身体診察では左背部に叩打痛があるが,その他に異常所見はない.腎盂腎炎を疑い,尿培養および血液培養2セットを採取のうえ入院加療を行うことにした.あなたが入院担当となり救急外来に到着すると,すでに救急医がセフトリアキソンの点滴静注を開始していた. ※クリック/タップで拡大します ⓒ セフトリアキソンをメロペネムに変更する 菌残存は耐性または抗菌薬が十分に届いていない証拠 再検された尿グラム染色像(図13)を見ると,菌量はわずかに減っていますが,起因菌はすべて消えていません.残存している菌は入院時と同様の形態であり,菌交代でもないようです.この場合に考えられるのは,①現行の抗菌薬に耐性をもつ菌株である可能性,②現行の抗菌薬に感受性がある菌株だが不十分な抗菌薬投与量や管腔閉塞・膿瘍形成によって感染部位に有効な濃度の抗菌薬が届いていない可能性,のどちらかです.Escherichia coliの国内の外来株を確認してみると,投与中のセフトリアキソンに対して耐性の株が約20%存在しています.したがって②の可能性も考慮しつつ,まずは①の可能性として対応する必要があります. Escherichia coliのβ-ラクタム耐性機構は通常,ペニシリン系抗菌薬や稀に第1世代セファロスポリンまでを分解するペニシリナーゼ,あるいはそれが変異してすべてのペニシリン系抗菌薬とすべてのセファロスポリンを分解できるようになった基質拡張型β-ラクタマーゼ(extended spectrum beta-lactamase:ESBL)のどちらかです.今回は第3世代セファロスポリンが奏効していないことがグラム染色所見から疑われるので,ペニシリナーゼではなくESBLを産生する株であることが推定されます.したがってESBL産生菌の治療の第一選択薬であるカルバペネム系,すなわちメロペネム(MEPM)に抗菌薬を変更します.そのうえで,エコー検査などで尿路閉塞や腎膿瘍がないかも同時に検索するのが安全でしょう.ESBL産生Escherichia coliはキノロン耐性遺伝子も有していることが多く,レボフロキサシン(LVFX)への変更は推奨されません.グラム陽性菌は鏡検で確認されていませんので,バンコマイシン(VCM)の併用は適切とはいえません. (2021/09/29公開) 戻る この"ドリル"の掲載書をご紹介します グラム染色診療ドリル 解いてわかる!菌推定のためのポイントと抗菌薬選択の根拠 林 俊誠/編 定価:3,960円(本体3,600円+税) 在庫:あり 月刊レジデントノート 最新号 次号案内 バックナンバー 連載一覧 掲載広告一覧 定期購読案内 定期購読WEB版サービス 定期購読申込状況 レジデントノート増刊 最新号 次号案内 バックナンバー 定期購読案内 residentnote @Yodosha_RN その他の羊土社のページ ウェブGノート 実験医学online 教科書・サブテキスト 広告出稿をお考えの方へ 広告出稿の案内