画像診断Q&A

レジデントノート 2014年9月号掲載
【解答・解説】喀血,胸痛を主訴に紹介受診した70歳代女性

ある1年目の研修医の診断

左上肺野に腫瘤があり,肺癌が疑われます.CT検査を行い,気管支鏡検査を行います.

Answer

胸部大動脈瘤切迫破裂

  • A1:左上肺野に腫瘤影を認める(図1).腫瘤は大動脈弓に接しており,シルエットサイン陽性である(図1).気管が右側に圧排されている(図1).
  • A2:肺癌,胸部大動脈瘤を鑑別として考え,胸部造影CTを施行,また症状の発症経過,血圧の左右差を確認する.

解説

本症例は,胸部大動脈瘤切迫破裂の一例である.急性の発症経過,大動脈弓と接する腫瘤のシルエットサイン陽性が本症を疑うカギとなる.

胸部大動脈瘤の大多数は無症状であり,胸部単純X線写真で偶然発見されることが多い.瘤が大きくなると圧迫症状として,胸背部痛,呼吸困難・咳・喘鳴,嚥下障害,頸静脈怒張・上大静脈症候群,反回神経麻痺による嗄声などの症状がみられる.しかしこれらの症状は肺癌,特に肺門・縦隔型肺癌でもしばしばみられる症状であり,ときに鑑別が問題となることがある.大動脈瘤が破裂すると,突然の激しい胸痛・背部痛が出現し,ショック,突然死をきたす場合も多い.喀血や吐血などがみられる場合があり,肺癌や上部消化管出血と誤診されるケースもある.いったん破裂が起こった場合の死亡率は50~80%とされ,病院に収容できたとしても,診断がついてから緊急手術まで分単位の時間が生死を分けるといってもよい.

本症例では,1週間前より咳嗽があり,突然の胸痛とともに喀血をきたしていた.Hb 9.7 g/dLと軽い貧血はあるが血圧は保たれていた.血圧は右上肢166/90 mmHg,左上肢120/66 mmHgと左右差を認めた.胸部単純X線写真(図1)では,左上肺野に腫瘤を認めるが,腫瘤は大動脈弓部に接していてシルエットサイン陽性で,気管は右側に圧排されており,病変が大動脈弓部周囲から縦隔に及んでいると考えられる.胸部造影CT検査を施行,肺野条件(図2)では左肺尖部に腫瘤を認め肺癌も鑑別として考えられるが,縦隔条件(図3)でみると腫瘤は大動脈弓部を取り囲むように存在し,造影される大動脈周囲には低濃度構造物を認め,解離腔の血栓が疑われる.さらに矢状断像では大動脈弓部から連続して嚢状に造影される部位があり(図4),弓部大動脈瘤(切迫)破裂,あるいは大動脈解離と診断した.

大動脈瘤の治療は手術=人工血管置換術を行うのが基本である.本症例では,多発性硬化症による全盲がありADLが低いことに加え,内頸動脈瘤の合併などを考慮し低侵襲な治療法を選択,大腿動脈から大動脈弓の瘤部にカテーテルを進め,ステントグラフト(人工血管)を留置した.術後の経過は良好で,救命に至り軽快退院となった.

図1 胸部単純X線写真
図2 胸部造影CT(肺野条件)
図3 胸部造影CT(縦隔条件)
図4 胸部造影CT(縦隔条件):矢状断像

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プロフィール

笠井 昭吾(Shogo Kasai)
東京山手メディカルセンター 呼吸器内科
徳田 均(Hitoshi Tokuda)
東京山手メディカルセンター 呼吸器内科
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