腹膜垂は直腸を除く大腸全域にみられる,大腸漿膜下組織と連続し腹膜腔内に突出する漿膜に覆われた脂肪体である.S状結腸や盲腸に多く認められる.自由結腸ヒモに沿って通常2列,大きさは0.5〜5cmで平均3cmである.通常,画像で腹膜垂を同定することはできないが周囲に炎症や多量の腹水が存在するときに確認できる.
腹膜垂炎は腹膜垂に炎症を起こした状態の総称であるが,血行障害型(原発性腹膜垂炎)と非血行障害型(続発性腹膜垂炎)が存在する.前者は腹膜垂そのものが捻転,梗塞,または直接圧迫による循環障害をきたし炎症を起こしたもの,後者は憩室炎など他疾患の炎症が腹膜垂に波及したものである.
腹膜垂の脂肪量は体重と相関している.本疾患は肥満体型者に多いことが知られており,これは体脂肪の増加に伴って腹膜垂が増大すると重みで腹膜垂の基部が捻転しやすくなるためと考えられている.好発年齢は20〜50歳で男性にやや多い.
臨床症状としては急性発症の限局した腹痛を認めることが多い.通常重症感はなく,腹部の疼痛部位に限局した圧痛を認め,筋性防御や反跳痛は認めない.
血液検査所見では特異的な所見は認めず,白血球数やCRPなどの炎症反応は正常か軽度上昇にとどまる.
炎症を起こした腹膜垂は結腸に隣接した径1~4cm大の卵円形の脂肪を含む病変として認められる.CTでは脂肪濃度の病変を取り囲む2〜3mm厚の高吸収の輪郭を認め,腹膜垂を覆っている炎症を起こした漿膜を反映している.これは腹膜垂炎に特徴的な所見である(hyperattenuating ring sign1)).脂肪濃度の病変の内部には高吸収の領域を含むことがあり,血栓化した脈管や内部の出血壊死を反映している.病変周囲の脂肪織の毛羽立ちや壁側腹膜の肥厚がみられることもある.隣接する結腸の反応性の壁肥厚がみられることもあるが,通常はみられない.これは憩室炎で隣接する結腸の反応性壁肥厚がみられることが多いことと対照的である.
原発性腹膜垂炎は自然軽快する予後良好な疾患であり,ほとんどの症例で1週間以内に症状の自然軽快がみられる.入院加療や抗菌薬投与は通常必要とせず,消炎鎮痛薬の投与のみで問題なく,食餌制限は不要である.臨床症状の類似する虫垂炎や憩室炎などの疾患と誤診した場合は本来不必要な入院や食餌制限,抗菌薬投与,外科手術が行われることにもつながるため,本疾患の診断において画像検査の果たすべき役割は大きい.
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