病歴と画像から生来健康な若年男性の市中肺炎と考えられ,胸部X線で浸潤陰影内に鏡面形成を伴う空洞陰影があったことから(図1),肺膿瘍と診断する.肺膿瘍は肺の化膿性炎症である.炎症により肺組織の破壊(壊死)がみられ,肺実質には空洞・膿瘍を認める.空洞を伴う浸潤陰影では,肺結核や肺がんも鑑別にあがるが,空洞内に鏡面形成がみられることから,硬い組織内に形成された空洞ではなく,液体状のものの中に形成された空洞といえる.このような場合には肺膿瘍以外の疾患は考えづらい.胸部X線で浸潤陰影と内部の鏡面形成を伴う空洞陰影を確認した後,追加で行った胸部CTでは,浸潤陰影周囲のすりガラス陰影が認められた(図2).
肺膿瘍の起炎菌は,一般的にはPeptostreptococcusなどの嫌気性菌やS. milleriなどの口腔内常在菌,あるいはKlebsiella pneumoniaeなどの腸内細菌が多いとされている.K. pneumoniaeによる肺膿瘍は日和見感染症として発症し,本症例の起炎菌としては考えづらい.歯周病などによって口腔内常在菌が増加している例が多いので,肺膿瘍の場合には必ず歯と歯周の衛生状態をチェックするようにする.また患者には糖尿病や大酒家,喫煙者が多い.本症例はこれらのどの状態にもあてはまらずむしろ稀有な例といえる.
はじめの症状は倦怠感と頭痛,その1週間後に鼻汁などがあり,いわゆる感冒状態が続いていた.さらにその1週間後くらいに肺炎症状が明らかになったことから,一般の肺炎と同様にはじめの感冒時期にウイルス感染などで気道の抵抗力が低下し,その後に肺膿瘍が引き起こされたものと考えられる.一般に肺膿瘍では増加した口腔内常在菌が直接気道を通じて肺感染を起こすので,感冒症状などの前駆症状を伴わない例が多い.本症例は発病の2週間前から明らかに上気道炎症状を呈しており,まずウイルス感染があって気道防御能が低下した状況で新たな感染が加わって肺膿瘍が形成されたものと推測される.
治療は嫌気性菌とS. milleriをカバーできればよいが本症例ではピペラシリン・タゾバクタム(PIPC/TAZ)が採用されて治療を行い5日ほどで自覚症状は改善した.しかし肺膿瘍は陰影が消失するのに時間を要することが多く外来ではアモキシシリン・クラブラン酸(AMPC/CVA)を継続投与した.
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