X線正面像(図1)では,右肺門部に腫瘤(→)を認める.傍気管線(→),右肺動脈(→)の陰影が保たれているため,シルエットサインは陰性であり,それらとは離れた前縦隔の腫瘤であろうと推測される.X線側面像(図2)では,本来胸骨後腔は肺野のみの部分であるがここに腫瘤陰影(→)が認められる.胸部X線写真からは前縦隔腫瘍を最も疑うが,数日前からの発熱,胸部痛を訴えているため,感染を合併したことが推測される.縦隔条件の胸部CT像(図3)では前縦隔腫瘍(→)があり,石灰化と低吸収域(壊死組織)を伴っており奇形腫が推測された.図4の肺野条件CTでは,腫瘍(① →)に接した右上葉肺野部分に浸潤陰影(② →)が接していることがわかる.前縦隔腫瘍に圧排され,右上葉の部分的無気肺+肺炎を合併してきたものと推測される.
合併した肺炎の治療のためにMEPM(メロペネム) 3 g/日の治療を行ったところ2日で解熱し検査データも徐々に改善した.入院から約3週間後に手術を行い縦隔腫瘍摘出+右肺野部分切除(無気肺部分)を施行した.腫瘍は良性のcystic teratoma:嚢胞性奇形腫(dermoid cyst:類皮嚢胞)であり,内部に出血,炎症,壊死,石灰化を伴っていた.
主な前縦隔腫瘍として,① 胸腺腫瘍,② 甲状腺腫,③ 奇形腫,④ 胚細胞性腫瘍,⑤ リンパ腫があげられる.奇形腫も胚細胞性腫瘍も胎生期の胚細胞の遺残から生じるが,良性の嚢胞性奇形腫はdermoid cystとも呼ばれる.内部には脂肪,出血,壊死,石灰化,歯牙などのさまざまな組織を含む.腫瘍に圧迫された部分で肺炎を併発することは稀であるが,気管支喘息状態で喀痰の排出遅延などがあり発症したものと推測される.術後8年を経過したが,再発なく健在である.
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