画像診断Q&A

レジデントノート 2015年2月号掲載
【解答・解説】腹部外傷.注目するべきポイントと次の一手を考えよう.

Answer

膵損傷 Ⅲb型

  • A1:膵損傷 Ⅲb型
  • A2:ERP(endoscopic retrograde pancreatography:内視鏡的逆行性膵管造影)

解説

膵損傷は腹部鈍的外傷のなかでは比較的稀であるが,診断および治療が遅れると膵液瘻から敗血症をきたし致命的になりうる病態である.症状や採血データはそのほかの外傷における腹部臓器損傷と同様で非特異的な所見である.膵損傷では血清アミラーゼの増加をきたすことが多いが,受傷直後は血清アミラーゼ値は偽陰性のことが多く診断的意義は低い.このためCTによる画像診断が膵損傷の発見,診断に大きな役割を果たす.

一般的に膵損傷の所見は軽微なことが多くシングルスライスCTの時代は早期の診断は困難であった.近年マルチスライスCTの普及により微小な病変の検出が可能となったが,依然として膵周囲の脂肪織が少ない場合や小さな膵管損傷では一見正常に見えることが少なくない.膵損傷に特異的なCT所見は膵実質の断裂および膵実質とその周囲の浮腫,血腫である.膵断裂は膵実質に線状の低吸収域として認められる(図2B).断裂が膵実質の1/2以上に及ぶときは膵管損傷の可能性が疑われる.

日本外傷学会では膵損傷を重症度によって,Ⅰ型 被膜下損傷(subcapsular injury),Ⅱ型 表在型損傷(superficial injury),Ⅲa型 単純深在性損傷(simple deep injury),Ⅲb型 複雑深在性損傷(complex deep injury)の4つの型に分類している1)

膵損傷の分類は治療方針の選択に大きくかかわっており,具体的にはⅠ型やⅡ型では保存的加療が選択され,Ⅲa型では保存的加療あるいは手術が選択され,Ⅲb型では手術あるいは内視鏡的膵管ステントが選択される.このためⅢb型の膵損傷(実質径損傷の程度にかかわらず,主膵管損傷を生じたもの)を確実に診断することが重要であり,主膵管の損傷の有無を診断できるかどうかが患者の生命予後を左右する.

ⅢaまたはⅢb型膵損傷に対する観血的治療には,膵縫合およびドレナージ術,膵尾部切除,脾温存膵尾部切除,膵頭側断端閉鎖,尾側膵空腸吻合術,膵管再建膵縫合術,膵頭十二指腸切除などがあげられるが,いずれも侵襲が大きい.近年では膵管ステントを内視鏡的に留置することで膵切除を回避した症例報告も散見されるが,膵液瘻や仮性膵嚢胞,敗血症,長期では膵管狭窄の合併症も多く今後のデータの蓄積が期待されている.このためやはり,主膵管損傷の有無を確実に診断する意義が大きく,造影CTの次のステップとしてはERPで主膵管からの造影剤漏出の有無を評価するのが望ましいとされている.

本症例では患者が治療を拒否したため,主膵管損傷があるにもかかわらず一度は保存的加療を試みたが,数日の経過で膵液瘻が増大し症状も悪化したため(図34),膵尾部切除が選択され一命を取り留めた.やはり主膵管損傷を伴う膵損傷の場合の保存的加療は困難であり,手術を中心とした観血的治療が望まれるため日々の診療においても初療における膵損傷の確実な診断と,主膵管損傷の有無を評価することが重要であると考えられる.

図2 来院時腹部造影CT
図3 本人が治療を拒否したため経過観察した後の画像
図4 ERP

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<症例のポイント>

造影CTにおいて膵実質の低吸収域を正しく認識し,膵損傷をすみやかかつ確実に診断する.

次のステップとして主膵管損傷の有無を正しく評価し,適切な治療法を選択することが重要である.

文献

  1. 日本外傷学会臓器損傷分類委員会:日本外傷学会臓器損傷分類2008,2008 http://www.jast-hp.org/archive/sonsyoubunruilist.pdf

プロフィール

長谷 学(Manabu Hase)
慶應義塾大学医学部 放射線診断科
田村 謙太郎(Kentaro Tamura)
慶應義塾大学医学部 放射線診断科
陣崎 雅弘(Masahiro Jinzaki)
慶應義塾大学医学部 放射線診断科
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