肺野にびまん性のすりガラス影を認めます.間質性肺炎でしょうか.経過が緩慢なので,HIV感染者のニューモシスチス肺炎,薬剤性肺炎を鑑別にあげます.ウイルス性肺炎も…
胸部単純X線では,両側の中下肺野に広範なすりガラス陰影を認める(図1○).すりガラス影を呈する疾患の鑑別として,薬剤性肺障害,急性過敏性肺炎,急性間質性肺炎,HIV感染症に合併したニューモシスチス肺炎,ウイルス性肺炎,急性肺水腫などがある.ウイルス性肺炎は通常急性の経過をとるため,本例の2カ月近い緩慢な経過からは考えにくい.急性間質性肺炎,急性肺水腫も緩慢な経過から否定的と考え,単純X線撮影時点ではニューモシスチス肺炎,急性過敏性肺炎,薬剤性肺障害を鑑別の上位に考えた.さらに診断を進めるため胸部CTを撮影した.
胸部CTでは淡いすりガラス濃度の小結節影が小葉中心性に,両肺びまん性に分布して認められた(図2).CT画像から経気道性の病変が示唆され,典型的な急性過敏性肺炎の像と考えられた.患者に吸入薬や内服薬などの使用はなく薬剤性肺障害は否定された.HIV感染症に合併するニューモシスチス肺炎の所見は胸部CTで小葉と無関係なすりガラス影が主であり,本例は画像的に否定的であった.また,患者のHIV抗体検査は陰性であった.
急性過敏性肺炎を疑い,患者へ病歴聴取を追加したところ,患者は自宅に戻ると朝方に発熱し,住居は築数十年の木造アパートで,窓はアルミサッシで,浴室にカビがあることが判明した.自宅での鳥飼育など鳥との接触はなかった.これらの病歴と画像所見から,夏型過敏性肺炎が最も疑われた.
入院後は無治療で環境隔離のみを行った.患者はすみやかに解熱し,胸部画像所見は軽快(図3)した.このことから,居住環境中の吸入抗原により誘発された肺障害であることが示唆された.また,前述の患者の住居は夏型過敏性肺炎の発症環境として典型的であった.後に入院時に提出した血清抗トリコスポロン・アサヒ抗体が陽性と判明した.以上,特徴的な臨床像,画像所見,発症環境,特異抗体の検出を認めたことから,夏型過敏性肺炎と診断した.本例では患者に住居の変更を指導し,別の住居で外泊試験を行い再発のないことを確認した後に退院とした.
過敏性肺炎は有機または無機の抗原物質を反復吸入することで起こるアレルギー疾患である.夏型過敏性肺炎は5〜10月に発症することが多く,安藤らによりTrichosporon asahiiが原因抗原と証明された1,2).Trichosporonは真菌の一種で,高温多湿な環境で湿った木や植物に繁殖することから,本疾患の診断には居住環境の聴取や調査が重要である.また,抗トリコスポロン・アサヒ抗体(2013年6月から保険収載)は感度,特異度ともに高く夏型過敏性肺炎の診断に有用な検査となっている3,4).
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