本症例は原発性肺癌,粟粒性肺内転移の症例である.胸部単純X線写真では両肺にびまん性,下肺野優位に分布する小結節影,粒状影を認め(図1→),右下肺野の心陰影に隣接しシルエットサイン陽性所見を示す腫瘤影を認める(図1○).胸部CTスキャンでは,両側肺野にびまん性に多発結節影,粒状影を認めた(図2).その分布は気管支,血管などの既存構造と一定の位置的関係のない,いわゆるランダム分布である.また小葉間隔壁肥厚も認められる(図3→).さらに,右肺中葉に末梢に無気肺像を伴う腫瘤病変(図4→)を認めたほか,掲載していないが縦隔内にもリンパ節腫大を認めた.
腫瘍マーカーのなかではCEAが262ng/mLと著明高値であり,一方IFN-γ放出試験のT-Spot®.TBは陰性であった.後日行われた気管支鏡検査では,右中葉にて施行した洗浄細胞診,擦過細胞診で腺癌細胞を検出し,全身検索の結果と合わせて原発性肺癌と診断した.気管支洗浄液から抗酸菌は検出されず,多発する粒状結節影は肺内転移と考え,抗腫瘍薬による治療を導入したところ,画像および検査所見の改善を得た.
本症例の画像読影のキーは多発結節影・粒状影のランダム分布である.これは小結節影や粒状影が多数ある場合に気管支や血管,小葉間隔壁などの既存の構造と一定の位置的関係を示さないものをいう1).ランダム分布は血行性に病変が散布される病態を示唆し,粟粒結核,悪性腫瘍の血行性転移,真菌症(カテーテル感染症)などがあげられる.前二者は頻度も高く,鑑別は必ずしも容易ではない.
多発肺内転移は乳癌,前立腺癌をはじめとして血行性転移像を示す悪性腫瘍にみられる病態であり,血行の豊富な下葉優位に分布することが知られている.本症例のように粟粒状の多発転移像については粟粒性肺内転移(miliary lung metastasis)という呼び方もされるが,確立された名称ではない.原発性肺癌の粟粒性肺内転移は約1%未満と比較的珍しいことが報告されている2).
粟粒結核(miliary tuberculosis)とは,結核菌が血行性に全身に散布され,肺およびその他の臓器にびまん性に微小結核結節を形成する病態である.肺においては粒の大きさは小さく,ほぼ均等な分布であり,癌との鑑別診断に役立つ.
また,本症例のように小葉間隔壁の肥厚すなわちリンパ路の病変を伴っている場合には悪性腫瘍を強く示唆すると考えられる.
粟粒性肺内転移を伴う原発性肺癌は,従来骨転移なども伴い,予後が悪いとされてきたが,近年EGFR遺伝子変異陽性症例の頻度が高いことがわかり,EGFRチロシンキナーゼ阻害薬が効果を示した症例も報告されている3).
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