胸部単純X線写真にて左中下肺野縦隔側に空洞を伴う病変を疑う.胃泡の影響か左横隔膜の挙上を認める.肺炎などの感染症を疑うため,次に必要な検査は喀痰や血液などの培養検査である.場合によってはCTを撮影する.結核も鑑別にあげる必要があるので喀痰抗酸菌塗抹結果が判明するまで空気感染対策を講じる必要がある.
Streptococcus anginosusはStreptococcus milleri groupに属する菌であり,呼吸器感染症においても肺炎,肺膿瘍および膿胸などの起炎菌となることが知られている.喫煙者,基礎疾患を有する患者および免疫力の低下した患者に発症しやすく,嫌気性菌との混合感染が多い,といった臨床的特徴が報告されている.本症例も糖尿病を背景として発症した.
胸水中にairが認められる時点で,肺内(気管内)と胸腔内の瘻孔があるものとしてよい.直ちに胸腔穿刺で胸水の性状を確認し,膿胸であれば有瘻性膿胸の診断となる.有瘻性膿胸は迅速な対応を要する緊急疾患である.胸腔内の膿性の内容物が瘻孔を介し健側肺に大量に流れ込んだ場合には,急激な酸素化低下を伴いARDS(acute respiratory distress syndrome:急性呼吸窮迫症候群)となって挿管,人工呼吸管理が必要となる場合がある.
本症例は,胸腔穿刺で膿性の胸水を確認した後,直ちに胸腔ドレーンを挿入し排液した.抗菌薬投与を継続し,幸い第7病日でドレーンからの気漏は停止し,瘻孔は塞がったものと判断した.排液の減少と炎症所見の改善が得られたため,第14病日にドレーンを抜去とした.経過にて気漏が停止しない場合は,気管支内視鏡下で気管内から気漏の責任気管支に塞栓子を挿入したり,外科的に気漏を閉鎖したりする処置が必要となる場合がある.
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