画像診断Q&A

レジデントノート 2016年9月号掲載
【解答・解説】発熱,咳嗽を主訴に受診した70歳代男性

Answer

前縦隔腫瘍,びまん性大細胞型B 細胞性リンパ腫(diffuse large B cell lymphoma:DLBCL)

  • A1:右上縦隔に沿って腫瘤影を認める(図1).傍気管線は消失し,気管は左方に偏位している.鎖骨より上方にて腫瘤影の辺縁は追えなくなっており,cervicothoracic sign陽性である(図1
  • A2:前縦隔腫瘍の鑑別として胸腺腫瘍,悪性リンパ腫,胚細胞性腫瘍,甲状腺腫瘍などをあげる.血液検査として腫瘍マーカー等を提出する.病巣への生検を試みるとともに,全身の画像検索を含めた精査を行う.なお本症例では,入院のきっかけとなった発熱,咳嗽などの症状,および肺野のスリガラス陰影については,別個の病態であり,抗菌薬投与に対する良好な反応から,肺炎と考えた.

解説

本症例は前縦隔腫瘍として発見されたびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(以下DLBCL)の症例である.胸部単純X線写真では右上縦隔に接して肺野に腫瘤影(図1)を認める.傍気管線は消失していることから,気管に接する腫瘍であることが推定される.鎖骨より上方にて腫瘤影の辺縁が追えなくなり,すなわちcervicothoracic sign陽性(図1)であることから,前縦隔腫瘤影であることが示唆される.

胸部CTスキャンでは,右上縦隔より上行大動脈レベルを超えて肺門上部にかけて広がる約5 cm大の腫瘤を認める(図23).腫瘤はほぼ均一な濃度で造影効果には乏しい.腫瘤により,右総頸動脈(図2),右鎖骨下動脈(図2),右腕頭静脈(図3)は圧排されている.

さらに,追加提出した腫瘍マーカー検査ではsIL2-R 1,320 U/mLと高値を認めた.全身状態が落ち着いたところでCTガイド下に前縦隔の腫瘤生検を行い,DLBCLと診断した.

本症例で認められたcervicothoracic signは,上縦隔に腫瘤性陰影を認めた際に必ず確認すべき所見である.肺は気管より前方では鎖骨の高さまでしかなく,胸部単純X線写真で見える肺尖部の肺は気管後方の部分である.気管より前方に位置する上縦隔腫瘍は鎖骨上方にて頸部の軟部組織内に位置し肺とは接しないこととなり,胸部単純X線写真上,肺との間に明瞭な境界を形成しなくなる.これをcervicothoracic sign陽性という1).CTスキャンが容易に行える現状ではあるが,このような基礎的な胸部X線単純写真の所見を指摘できてこそ,画像診断の上達が望めるといえよう.

中~前縦隔に発生する腫瘍として鑑別すべきものは,頻度の高い順に胸腺腫瘍,胚細胞性腫瘍,悪性リンパ腫,そして縦隔上部にみられる甲状腺腫瘍や副甲状腺腫瘍などである.このなかで胸腺腫瘍が約45%と最も多くみられ,悪性リンパ腫は約15〜20%程度である2)

本症例で診断されたDLBCLは成人のB細胞性リンパ腫の約37%を占め,最も発症頻度が高く,発症年齢の中央値が70歳代と比較的高齢である点からも,高齢化社会において遭遇することが多くなってきた疾患である.B細胞上のCD20を標的としたモノクローナル抗体のリツキシマブの登場により予後が改善されてきている3)

DLBCLが縦隔腫瘍として発見された場合,本症例のように周囲の血管や肺へと深く浸潤する所見を呈することがあり,臨床症状として,上大静脈症候群や気道の狭窄,閉塞による症状をきたすこともある2)

図1 抗菌薬投与後の胸部単純X線写真 図2 胸部造影CT 図3 胸部造影CT(図2より尾側)

クリックして拡大

参考文献

  1. 胸部単純X線診断をきわめる.(酒井文和/編),画像診断, 27:2007
  2. 佐土原順子, 他:第14回 リンパ腫とその他の縦隔腫瘍の鑑別, リンパ腫の亜分類の鑑. 日本胸部臨床, 72:1239-1249, 2013
  3. 宮本 鋼:高齢者における悪性リンパ腫の治療. Geriatric Medicine, 51:123-127, 2013

プロフィール

江本範子(Noriko Emoto)
東京山手メディカルセンター 呼吸器内科
徳田 均(Hitoshi Tokuda)
東京山手メディカルセンター 呼吸器内科
サイドメニュー開く

TOP