画像診断Q&A

レジデントノート 2016年11月号掲載
【解答・解説】咳嗽,喀痰,呼吸困難,食欲不振で受診した70歳代女性

ある1年目の研修医の診断

左肺に広範な浸潤影がありますが,炎症反応は低いので,結核や器質化肺炎を考えて,気管支鏡検査をします.

Answer

肺腺癌:浸潤性粘液産生性腺癌の1例

  • A1 :左肺に広範な浸潤影を認める.左横隔膜は挙上し,病変の収縮傾向を示している.右上肺野にも浸潤影,すりガラス影を認める.
  • A2 :肺癌,特発性器質化肺炎,肺結核症,転移性肺腫瘍などを鑑別として考え,胸部CT,気管支鏡検査を行う.

解説

肺腺癌の特殊型,浸潤性粘液産生性腺癌(invasive mucinous adenocarcinoma)の典型例である.亜急性~慢性の経過で,抗菌薬無効,両肺に広範な浸潤影を認める,CEA高値などより,本症あるいは転移性肺腫瘍を第一に疑う.

肺腺癌のなかには画像上肺炎様の陰影を呈するタイプが存在することが以前より知られ,細気管支肺胞上皮癌(bronchioloalveolar carcinoma:BAC)とよばれてきた.肺胞上皮を置換する形で癌が増殖し,経気道的に転移しやすく,予後不良の進行癌である.2011年のWHO新分類(第4版)では,肺腺癌の病理分類としてBACという診断名は一切使わない方針となり,肺炎様の陰影を呈するタイプは「特殊型腺癌」の浸潤性粘液産生性腺癌に分類されることとなった.このタイプの腺癌は一般にプラチナを含む製剤による化学療法に抵抗性であるが,EGFR遺伝子変異陽性例でゲフィチニブなどの奏効する例が報告されている.

本症例に関して,胸部単純X線写真(図1)では,左肺に広範な浸潤影を認め,左横隔膜は挙上し(図1)病変の収縮傾向を示している.右肺にも一部浸潤影,すりガラス影を認める.亜急性~慢性の経過で,抗菌薬が無効であることより肺結核症も鑑別としてあがるが,陰影は浸潤影が主体であり,空洞や散布像は認めずその可能性は低い.特発性器質化肺炎は画像からの鑑別は困難であるが,発熱がなく炎症所見が軽いことから否定されよう.慢性好酸球性肺炎も末梢血好酸球増多がないことから否定的である.一方で,CEAが非喫煙者であるにもかかわらず軽度上昇している.これらすべてを総合して,肺炎型の肺腺癌や転移性肺腫瘍の可能性を考える.胸部CT(図2)では,左上葉胸膜側に浸潤影と周囲にすりガラス影,右上葉には胸膜直下に不整形の斑状影(図2)や結節影(図2)を認めるが,画像からの特異的な診断は困難である.

診断確定のために施行した経気管支肺生検(TBLB)では,既存の肺胞上皮を置換するように発育する高円柱状の腺癌細胞を認めた.以上より浸潤性粘液産生性腺癌と診断した.なお転移性肺腫瘍においても同様の陰影を呈する場合があり,特に膵癌や卵巣癌の転移を否定することが重要である.本症例では腹部CTにて腹部・骨盤臓器の異常は認めず,転移性肺腫瘍は否定された.

難治性の肺炎をみたとき,鑑別の1つとして浸潤性粘液産生性腺癌も考慮すべきである.

図1
図2
  • 画像はクリック/タップで拡大します

プロフィール

笠井昭吾(Shogo Kasai)
東京山手メディカルセンター 総合内科
徳田 均(Hitoshi Tokuda)
東京山手メディカルセンター 呼吸器内科
サイドメニュー開く

TOP