画像診断Q&A

レジデントノート 2017年1月号掲載
【解答・解説】片側性下肢腫脹の原因は?

Answer

ベーカー嚢胞 (Baker’s cyst)破裂

  • A1:深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)
    深部静脈血栓症は,重篤な肺塞栓症につながる可能性があり,片側性の下肢腫脹では鑑別にあげなければならない.なおラロキシフェンは静脈血栓症のリスクを上昇させる.
  • A2:ベーカー嚢胞破裂
    超音波(図1),MRI(図2図3)で,腓腹筋内側頭(medial head of gastrocnemius muscle:GC)と半膜様筋腱(semimembranosus muscle and tendon:SM)の間にくびれをもつ嚢胞性病変を認めた.この所見はベーカー嚢胞に特徴的な所見である.下腱の筋膜に沿った液体貯留(図3)と皮下浮腫からベーカー嚢胞の破裂が示唆される.超音波ドプラ法では明らかな静脈血栓の所見を認めなかった(非掲載).

解説

ベーカー嚢胞(Baker’s cystあるいはpopliteal cyst)は,膝窩において腓腹筋-半膜様筋滑液嚢が後方へ拡大して生じる病態である.内部に滑液を貯めているが,関節腔と交通しており,真の「嚢胞」ではない1).ベーカー嚢胞と関節リウマチや変形性膝関節症との関連が知られており,またベーカー嚢胞の94%に膝の障害(主として半月板,軟骨,前十字靱帯の障害)があると報告されている1)

ベーカー嚢胞は,膝後面の腫脹や疼痛を自覚することもあるが,ほとんどが無症状である.しかし,ベーカー嚢胞の拡大あるいは破裂が生じると,ふくらはぎの疼痛,発赤,腫脹というDVT類似の症状を呈する.このような病態はpseudothrombophlebitisと呼ばれ,古くからよく知られている.

ベーカー嚢胞は触診に加え,超音波で診断できる可能性があり,侵襲もなく,簡便であることから積極的に活用したい.ベーカー嚢胞は膝窩の内側で,腓腹筋内側頭と半膜様筋腱の間から拡大する低エコーの嚢胞構造として描出される2).超音波でみられる膝窩の軟部織影の鑑別として,半月板嚢腫やガングリオン,膝窩動脈瘤があげられるが1),腓腹筋内側頭と半膜様筋腱の間から拡大する所見はベーカー嚢胞にきわめて特徴的とされる2).なお,完全に破裂したものは超音波で認識できないこともあるとされ,確診が得られないときは,MRIを撮像するとよい.

リスクのある患者には深部静脈血栓症の検索を躊躇してはならないが,超音波を用いてベーカー嚢胞が原因であると診断できれば,CTによる被曝や造影剤の使用を回避できる可能性がある. また,ベーカー嚢胞破裂に対して抗凝固療法を行ってしまうと,深刻な血腫を生じるため1),鑑別を意識することは重要である.

稀ながら,ベーカー嚢胞がコンパートメント症候群,神経や脈管のエントラップメント(絞扼)の原因となることがある1).後者では,ベーカー嚢胞が静脈を圧迫して血栓を生じる病態があり,pseudo-pseudothrombophlebitisと呼ばれることもpitfallとして記憶したい.

図1
図2
図3
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引用文献

  1. Torreggiani WC, et al:The imaging spectrum of Baker’s(popliteal)cysts. Clin Radiol, 57:681-691, 2002
  2. Ward EE, et al:Sonographic detection of Baker’s cysts:comparison with MR imaging. AJR Am J Roentgenol, 176:373-380, 2001

プロフィール

山中智人(Tomohito Yamanaka)
慶應義塾大学医学部 放射線診断科
松本俊亮(Shunsuke Matsumoto)
慶應義塾大学医学部 放射線診断科
陣崎雅弘(Masahiro Jinzaki)
慶應義塾大学医学部 放射線診断科
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