画像診断Q&A

レジデントノート 2017年8月号掲載
【解答・解説】交通外傷をきっかけに1週間前より頭痛をきたした40歳代男性

Answer

脳脊髄液漏出症に伴う低髄液圧症に由来する慢性硬膜下血腫

  • A1 :両側の前頭-頭頂部の骨直下に液体貯留を認める(図1).内部吸収値は灰白質と同程度であり,慢性硬膜下血腫と考える.
  • A2 :若年の慢性硬膜下血腫は稀である.また,本症例においては硬膜下血腫貯留量とは釣り合わない脳幹周囲槽の狭小化を伴う(図2).これは,低髄液圧に伴い大脳全体が中心に牽引された像と考える.これに伴い架橋静脈が牽引され,二次性に硬膜下血腫をきたしたと考える.別日撮影のMRIでは,背景にある低髄液圧症を疑う所見がより明確に認められる(図3).

解説

脳脊髄液漏出症に伴う低髄液圧症は腰椎穿刺後などの術手技後や外傷を契機に発症し,臨床徴候としては,起立性頭痛が特徴的とされる.疾患概念や診断基準には長らく議論があったが,本邦では厚生労働省研究班の報告に基づくガイドライン1)が発表されている.気をつけなければならないのは,本症例のような典型的な画像所見をきたす低髄液圧症の頻度は決して高くなく,CT/MRI画像上,変化を捉えるのが困難な症例も多い点である.外傷後の起立性頭痛をきたした症例については,頭痛専門医の受診が推奨される.

本疾病に伴う慢性硬膜下血腫は低髄液圧症に伴う二次性の変化であるため,安易に血腫除去術を行った場合に,さらなる低髄液圧を励起し,ときに致死的になる危険性もある2).本疾病の病態を正確に把握することが必要である.

本症例の読影のポイントは下記の2点である.

解剖構造の境界を意識的に読影することが重要である.硬膜下血腫においては,一般的な血腫とは異なり,吸収値が中等度となり灰白質との境界が不明瞭になる(図1---).このような場合に血腫-脳実質境界が不明瞭となり,血腫の見落としの原因となる.対策としては,灰白質-白質構造の境界を意識した読影を行うことを提案したい.具体的には,白質構造はCTでは低吸収,灰白質構造は高吸収に描出されることを利用する.本症例において,白質構造の低吸収域の外側縁を追跡すると,白質構造と頭蓋骨の間に灰白質構造以外の厚みをもった構造があることが同定できる.漫然とした読影ではなく,解剖構造の境界を意識的に追跡することで,見落としを防げる.

病変が存在することに伴う周囲変化・ベクトルを意識することが重要である.本症例は硬膜下血腫の血腫貯留量は少量である.この程度の血腫単体では,脳幹周囲槽を狭小化するほどの脳圧亢進をきたさない.血腫がある→脳実質を圧排する→脳槽が狭小化する,という,病変が存在することに伴う力学的なベクトルを“想像”していく過程で違和感に気づくことができる.この違和感と“若年の慢性硬膜下血腫は稀である”との臨床的知識を組み合わせることで正しい診断に近づくことができる.

※本原稿は,“ネッティー先生のわかる! 見逃さない!CT読影術/ケアネットDVD”(ケアネット, 2015)提示の症例を許可を得て改変したものである.

図1
図2
図3
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文献

  1. 平成22年度厚生労働科学研究費補助金障害者対策総合研究事業(神経・筋疾患分野).脳脊髄液減少症の診断・治療法の確立に関する研究班:脳脊髄液漏出症画像判定基準・画像診断基準
  2. 前田 剛,他:低髄液圧症候群と慢性硬膜下血腫:その診断と治療.脳神経外科速報,25:1280-1284, 2015

プロフィール

関根鉄朗(Tetsuro Sekine)
日本医科大学付属病院 放射線科
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