画像診断Q&A

レジデントノート 2017年10月号掲載
【解答・解説】乾性咳嗽を主訴に来院した40歳代女性

ある1年目の研修医の診断

胸部X線写真にて左下肺内側に浸潤影か無気肺を認める.病歴から市中肺炎を考えて喀痰検査などを行う必要がある.

Answer

左下葉全体の浸潤性粘液性腺癌(IMA)によって左下葉の無気肺と気胸をきたした若年女性例

  • A1 :下行大動脈に接した腫瘤(図1A)と左下葉の容積減少()は胸部X線像で読みとれる.
  • A2 :左下肺の腫瘤影の精査目的にCT検査を行う.

解説

特に医療機関受診歴なく,徐々に増悪する呼吸器症状を主訴に来院された,若年女性の症例である.発熱や胸痛などの肺炎症状を欠くことから市中肺炎以外の疾患も念頭に幅広く鑑別をあげる必要がある.

胸部X線像(図1A)では,まず下行大動脈に接した腫瘤()を指摘しないといけない.CT(図1B)にて確認すると,胸部X線像で心陰影に重なって腫瘤状にみえる陰影()は虚脱した左下葉であることがわかるが,手術後の病理検索の結果,この左下葉のほとんどが腺癌組織であった(後述).経過観察にても気胸の改善なく,ドレナージ挿入後,気管支鏡を施行したところ,気管支の浮腫や内腔の狭窄像は認められなかった.肺末梢S10bから行ったTBLB(経気管支肺生検)では腺癌組織が得られ,浸潤性粘液性腺癌(invasive mucinous adenocarcinoma:IMA)であった(図2).全身検索の結果cT4N0M0 StageⅢAの診断となり,左下葉切除が施行された.肺切除検体の病理組織では肺葉の広い部分を肺炎様の灰白色のconsolidateした病巣が占めていた.腫瘍の浸潤径は10.5 cmであり,全体がIMA(以前のmucinous BAC:bronchioloalveolar carcinoma)であった.

本症例の主病巣は左肺底区肺野に発生した悪性腫瘍である.若年の非喫煙者の女性であり,組織像は腺癌であった.癌組織が末梢肺野を肺炎様に浸潤し,同時に左肺底区の太い気管支に全周性に発育して腫瘤を形成したために,下行大動脈に接してシルエットサイン陽性(下行大動脈の線の消失)となっている().そして,肺野に浸潤する腫瘍のために左下葉のコンプライアンスが低下して換気が低下し,肺野が収縮し(中枢性無気肺ではないために下葉気管支はむしろ拡張している)容積減少・無気肺様陰影となっている.下葉の容積減少が生じたときの上葉の代償性膨張が不十分であると,本症例のように気胸を生じることになる.腫瘍の存在のために肺野の膨張不全をきたして気胸が発生することは日常臨床でもしばしば経験されるが,主病巣部を切除できない限り気胸の改善は難しい.

IMAについては2017年8月号でも扱ったが,画像診断という観点でより教育的な症例を呈示した.

図1
図2
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プロフィール

北村淳史(Atsushi Kitamura)
聖路加国際病院 呼吸器内科
山口哲生(Tetsuo Yamaguchi)
東京メディサイトクリニック
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