画像診断Q&A

レジデントノート 2018年3月号掲載
【解答・解説】遷延する咳嗽を主訴に受診した50歳代女性

Answer

原発性肺癌(浸潤性粘液性腺癌)

  • A1 :左右の下肺野にスリガラス陰影,そして左下肺野に一部浸潤影を認める.
  • A2 :鑑別診断としては,間質性肺炎として特発性器質化肺炎,感染症などを考え,特に結核性肺炎の除外に努める.また原発性肺癌あるいは悪性リンパ腫をあげる. 検査としては,胸部CTスキャンなど全身の画像検索を行う.血液検査では腫瘍マーカー,間質性肺炎のマーカーの上昇を検索する.全身状態が安定していれば,気管支鏡検査で浸潤影部分の経気管支鏡的肺生検(TBLB)を試みる.

解説

胸部単純X線写真上,右下肺野,左中下肺野にスリガラス陰影~淡い浸潤影を認める(図1).左下肺野は一部濃厚な部分がみられる(図1).同日に撮影された胸部単純CT写真では,右中葉,左舌区と左下葉に広範なスリガラス陰影があり(図2),右中葉のスリガラス陰影では小葉単位の濃淡があり(図2).左下葉のS8領域では気管支透亮像(図2)を伴う汎小葉性の浸潤影がみられる(図2).

本症例では亜急性の経過を示し,臨床所見および血液検査上の炎症所見に乏しく,広範な肺の浸潤影の鑑別診断が要求される.間質性肺炎としては特発性器質化肺炎などの亜急性の経過をとるものがあがるが,本症例ではKL-6値など間質性肺炎のマーカーは正常範囲内であった.加えて,症状,検査値に炎症所見を全く欠いており,臨床像が異なる.感染症疾患としては,一般細菌,抗酸菌,真菌などを鑑別に考え,特に結核性肺炎の除外が必要である.結核性肺炎は,既存の空洞などから大量の菌が散布され,広範な滲出性反応が惹起される結果,肺炎様の病像を呈する.画像所見としては本症例のような,広範な汎小葉性のスリガラス陰影,浸潤影などがみられる1).結核性肺炎に特徴的である,浸潤影の内部の空洞影の有無や小葉中心性の粒状影の併存などに留意する必要がある1)が,本症例ではそのような所見は指摘できなかった.

悪性腫瘍としては,肺腺癌,特に肺炎像を示すことの多い浸潤性粘液性腺癌あるいは悪性リンパ腫があがる.本例では気管支鏡検査が行われ,TBLBの結果,浸潤性粘液性腺癌と診断された.6カ月前の胸部単純X線写真は正常であり,原発性肺癌としては比較的早い進行経過を示した症例である.

浸潤性粘液性腺癌は原発性肺癌の約2〜10%程度を占めると考えられている,腺癌の一亜型である2).粘液成分を分泌するため,画像所見としてスリガラス陰影,びまん性肺胞陰影など肺炎類似所見を呈することがよく知られており,広範なスリガラス陰影,浸潤影を見た場合の鑑別診断として重要である2).また,浸潤性粘液性腺癌の分泌物は水分を比較的多く含む粘液であるのに対し,肺炎やリンパ腫など他の疾患におけるコンソリデーションは肺実質もしくは細胞成分の多い分泌物であるため,浸潤性粘液性腺癌では比較的低いCT値となることが鑑別に有用である3).造影CTの際には,均一な低吸収域を示すコンソリデーションの内部に明瞭な血管影が確認されることがある.これをCTアンギオグラムサインと呼び,浸潤性粘液性腺癌の鑑別において利用されている3)

また,浸潤性粘液性腺癌は,化学治療に抵抗性であることが多く,すみやかな診断と治療介入が望まれる2,4)

図1
図2
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参考文献

  1. 「画像と病理から学ぶ 結核・非結核抗酸菌症」(徳田 均,他/著),pp40-48,克誠堂出版,2016
  2. Shimizu K,et al:Clinicopathological and immunohistochemical features of lung invasive mucinous adenocarcinoma based on computed tomography findings.Onco Targets Ther,10:153-163,2017
  3. Im JG,et al:Lobar bronchioloalveolar carcinoma:“angiogram sign” on CT scans.Radiology,176:749-753,1990
  4. Yamazawa H,et al:A favorable response to cisplatin,pemetrexed and bevacizumab in two cases of invasive mucinous adenocarcinoma formerly known as pneumonic-type mucinous bronchioloalveolar carcinoma.Intern Med,52:2781-2784,2013

プロフィール

江本範子(Noriko Emoto)
東京山手メディカルセンター 呼吸器内科
徳田 均 (Hitoshi Tokuda)
東京山手メディカルセンター 呼吸器内科
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