右下肺野の心臓に接して陰影があります.心臓とシルエットサインが陽性です.陰影は前方か後方かどう判断するのか….
胸部単純X線写真では右下肺野縦隔側の右心横隔膜角に腫瘤影を認める(図1→).腫瘤は右心影と横隔膜上縁にシルエットサイン陽性で,腫瘤の上縁から右側(外側)の辺縁は明瞭である.横隔膜は腹側が高いうえに凸なドーム状の形をしているため,右心影と横隔膜上縁でシルエットサイン陽性となる腫瘤は,心臓と横隔膜に接する前縦隔に位置することが推定される.
本例では最初に前縦隔腫瘍を疑ったが,胸部単純X線正面像のみでは異常影の鑑別診断は難しいため,腫瘤と心臓との関連,および異常影の質的な評価を行う目的で胸部造影CTを実施した.
胸部造影CTでは右心横隔膜角に,陰影内部が均一で造影効果がみられない大きさ6 cmほどの腫瘤が認められ,縦隔嚢胞が考えられた(図2→).縦隔嚢胞の鑑別疾患として気管支・消化管嚢胞,心膜嚢胞,胸腺嚢胞,側方髄膜瘤,嚢胞性奇形腫,嚢胞状リンパ管腫などがあげられる.嚢胞壁に肥厚,石灰化,脂肪成分はみられず,嚢胞性奇形腫は否定された.壁の薄い単房性の画像所見と,好発部の右心横隔膜角に発生していることから心膜嚢胞が考えられた.患者には胸部外傷の既往はなかった.
経過観察のため半年後にMRIを実施したところ,右心横隔膜角に大きさ6 cmほどのT2強調像で明瞭な高信号を示す腫瘤が認められ(図3→),大きさは半年前と不変であった.患者は外科切除を希望されなかったため,心膜嚢胞が増大傾向を認めた場合に外科的切除を行う方針とした.
心膜嚢胞は心膜腔と交通をもたない原始小胞が遺残して生じる.心膜腔と交通のあるものは心膜憩室と呼ばれるが稀である.心横隔膜角に好発し,特に右側に多い.病理学的に嚢胞壁は結合組織と1層の中皮細胞からなり,内容液は通常は漿液性である.画像所見はCTでは低吸収を呈し,MRIのT2強調像にて高信号を呈する.ほかの先天性縦隔嚢胞と類似することから存在部位を考慮して診断する.画像診断で心膜嚢胞が考えられ,周囲臓器への圧迫症状がない場合,経過観察となることがある.