肺の腫瘤影の鑑別として,腫瘍性疾患,感染症とともに円形無気肺もあげられる.円形無気肺は胸膜病変に続発して発症する肺末梢の無気肺である.原疾患である胸膜病変の多くはアスベスト曝露や胸水であるが,そのほかにも稀に,自然気胸,外傷性血胸,開胸術後などが報告されている.
円形無気肺は胸膜が肺実質に折りこまれ,同部位を中心として無気肺が生じていることが病理学的に証明されている.その機序としては,圧迫された肺が虚脱し,虚脱肺と周囲の肺の間の胸膜が折れ曲がる状態が長く続くと,折れ曲がった胸膜が癒着し,虚脱肺が膨張するとともに癒着部で肺を巻き込み,円形無気肺が形成されるという説が有力である1).
円形無気肺の画像所見では,種々の大きさの円形陰影が主に下葉の胸膜直下にみられる.特徴的な所見としては,弧状に病変に向かう血管や気管支(コメットテイルサイン),病変部と接する胸膜の限局性の肥厚が報告されている2).
本症例では特徴的なコメットテイルサインがみられ,円形無気肺を強く疑った.胸腔ドレナージを施行した後に気管支鏡検査を行い,病理学的に肺胞虚脱を証明し,悪性所見を否定した.また,本症例の肺嚢胞は比較的大きく,その壁は比較的平滑であり,肺底部優位に分布していた.そこで,Birt-Hogg-Dubé症候群(BHD症候群)を鑑別にあげ,FLCN(フォルクリン)遺伝子解析を勧めたが,本人が拒否したためそれ以上の精査は行わなかった.外来での経過観察では,円形無気肺に著変はみられなかった.