画像診断Q&A

レジデントノート 2019年5月号掲載
【解答・解説】腹痛と腎機能低下を認めた40歳代女性

ある1年目の研修医の診断

腹水が多いので,術後に頻発するリンパ漏と,腹腔内への感染でしょうか.腎機能は…わかりません.

Answer

膀胱破裂

  • A1:図12からは膀胱の破裂部位を同定できない.しかし急な腎機能低下(クレアチニン上昇)にもかかわらず,画像上は腎および尿管に異常が認められない.ここから膀胱破裂による偽性腎不全,それに伴う腹膜炎を考える.
  • A2:膣断端からの漏出液のクレアチニン濃度を測定.

解説

本症例を正しい診断に結びつけるポイントは血中クレアチニン値の上昇である.皆さんは腹膜透析の仕組みを覚えているだろうか.腹腔内の透析液と血液の間では腹膜を介してさまざまな物質の交換が起こる.膀胱破裂など尿路の損傷で尿が腹腔内に漏出すると,透析液と同様の機序によって尿と血液の間で物質が交換されるが,血中に比して尿内には高濃度のクレアチニンが含まれているため,腹膜を介してクレアチニンが血中に再吸収され,見かけ上,腎不全になったかのような血液データの推移が認められる.これを偽性腎不全(pseudo renal failure)と呼び,本症例の重要な手がかりとなる.

本症例における画像診断の役割は腹水の存在と腎・尿路に腎不全になるような粗大な異常がないことを確認するくらいである(図123).見かけ上は急性腎不全の状態であり,ヨード造影剤は通常使用できないため,単純CTのみでの情報を頼りにすることになる.

膀胱破裂は婦人科などで骨盤内の手術後に稀に発生する合併症として知られているが,そのほとんどは術中に目視で認識が可能である.なぜ本症例では遅発性に生じたのか.それは,同じく合併症として認められる排尿障害が鍵を握っている.術後すぐから排尿障害は認められるが,しばらくは創部の痛みもあり,そこまで強く腹圧をかけて排尿できない.しかしある程度経ちちょうど十分に腹圧をかけて排尿ができるようになったころ,十分な腹圧がかかったことで破裂した,と推測される.

そのほか,子宮内膜症の癒着や骨盤部の放射線照射歴がリスクとなる.また特に骨盤部のリンパ節郭清をした際に高頻度でリンパ漏を合併することが知られており,本症例のように膣断端からの液体(尿)漏出を「リンパ液」だと臨床医が思いこむケースは多い(筆者が経験した5例はいずれも当初「リンパ液」だと考えられていた).

画像診断への期待がやや過度になっている昨今だが,この疾患に限らず,画像診断は,あくまでも診療の補助的な1つのツールに過ぎず,万能であるということは全くない.また「異常所見」ばかりに目が行きがちであるが,「正常である」ということも,重要な「所見」である.本症例はこれらを学んでいただきたく提示した.

図1
図2
図3
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プロフィール

山内哲司(Satoshi Yamauchi)
奈良県立医科大学 放射線科・総合画像診断センター
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