右上中肺野に浸潤影を認めます.一般細菌による肺炎と考えます.
胸部単純X線写真では右上中肺野にすりガラス影を伴う浸潤影を認める(図1○).酸素化障害を伴う重篤な肺炎の場合,肺炎球菌性肺炎,レジオネラ肺炎をまずは疑う.本例は肝機能障害,高CK血症,腎機能障害を認めることから,肺炎球菌性肺炎よりもレジオネラ肺炎が考えられた.胸部単純CTでは右上葉に広範なすりガラス影(図2→)を伴う浸潤影(図2→)があり,浸潤影とすりガラス影の境界が直線的に境される像を認めた.これはレジオネラ肺炎に特徴的な所見である1).尿中レジオネラ抗原検査が陽性と判明し,レジオネラ肺炎と診断した.追加の病歴聴取で8日前から1泊の温泉旅行歴が判明し,そこでの感染と考えられた.入院にてレボフロキサシンの点滴静注を行いすみやかに軽快した.また,本例は未治療の糖尿病があり,これもリスク因子と考えられた.
レジオネラ肺炎はレジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)を代表とするレジオネラ属菌による感染症である.レジオネラは土壌や水環境に存在する細菌で,温泉,公衆入浴施設,循環風呂,ジャグジー,ビルの冷却塔,噴水などが感染源になることがあり,潜伏期は2〜10日である.またレジオネラは通性細胞内寄生細菌でヒトのマクロファージ内でも増殖する.したがって抗菌薬は細胞内移行のよいキノロン系が第一選択となる.βラクタム系抗菌薬は細胞内移行が悪く,本症には効果がないことは知っておかねばならない.
レジオネラはグラム染色では検鏡できず,培養にはBCYEα寒天培地などの特殊な培地を要するため,診断の際は尿中抗原検査が広く用いられている.これまではレジオネラ・ニューモフィラ血清型1型しか検出できなかったが,2019年2月からすべての血清型(1~15)を検出できる尿中抗原検査キット(リボテスト®レジオネラ)が保険収載され,今後の実臨床での評価が期待される.尿中抗原検査は偽陰性のことがあり,その場合の診断確定には,喀痰などからLAMP法での特異的遺伝子の検出,ペア血清での抗体価検査を要する.なお,レジオネラ症は4類感染症のため,診断したら直ちに保健所に届出を行う必要がある.