肺の空洞陰影,空洞様陰影を呈する代表的な疾患は,感染症では肺結核,肺非結核性抗酸菌症,真菌症(肺アスペルギルス症,肺クリプトコッカス症,ニューモシスチス肺炎,肺ムコール症など),肺化膿症,敗血症性肺塞栓症,寄生虫症(ウェステルマン肺吸虫症,宮崎肺吸虫症など)があげられる.
非感染症では腫瘍性疾患(肺癌,転移性肺腫瘍),多発血管炎性肉芽腫症,サルコイドーシス,外傷性肺嚢胞などがあげられる1).
肺化膿症では,化膿性病原菌により肺実質が壊死に陥り空洞が形成される.画像所見は,単発または複数の空洞を伴う腫瘤である.空洞壁は比較的厚く平滑であることが特徴であり,液面形成を伴うことが多い.本例では肺化膿症を考えて喀痰グラム染色を行った(後述).
肺化膿症では,口腔咽頭内容物の顕性もしくは不顕性誤嚥が発症の主要因であることが多く,高齢,脳血管障害による嚥下機能の低下や,アルコール依存,精神疾患などで長期臥床となっている患者に多くみられる.
また本症例では毎日5合の飲酒歴が原因の一助を担っていると考えられた.
肺化膿症の原因菌は口腔内常在菌やブドウ球菌,緑膿菌が代表的である.
本症例では喀痰グラム染色で集簇して塊を形成するグラム陽性球菌がみられ,黄色ブドウ球菌による肺化膿症を疑いセファゾリン6 g/日で加療した.後日,喀痰培養でメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(methicillin-susceptible Staphylococcus aureus:MSSA)が同定された.徐々に臨床症状,画像所見は改善し,入院7日目で退院し外来治療に移行した.