胸部単純X線写真では両肺野に広範なすりガラス影を認めるが(図1○),肺野の容積低下は認めない.また同日施行した胸部単純CTでは両肺野にびまん性にすりガラス影を認め,モザイクパターンを呈していた(図2○).
本症例は広範なすりガラス影を呈する呼吸困難を主徴とした.防水スプレーの使用直後に症状が出現したという特徴的な経過から,防水スプレーによる肺障害が最も考えられた.鑑別疾患としては急性過敏性肺炎,薬剤性肺炎,ニューモシスチス肺炎(pneumocystis pneumonia:PCP)に加えて,COVID-19が流行していたためCOVID-19肺炎もあげられた.急性過敏性肺炎の原因となりうる環境因子や,薬剤性肺炎の原因となる薬剤もなく,PCPに関してもβ-Dグルカンが陰性であったことから否定的と考えた.特徴的な病歴から防水スプレーによる肺障害が最も疑われたが,COVID-19感染の可能性も否定できないため個室管理とした.呼吸器症状出現前に感冒症状が全くなかったことからCOVID-19肺炎の可能性は低いと考え,ステロイド加療を施行したところ改善し,SARS-CoV-2も検出されなかった.退院前に急性過敏性肺炎の鑑別のために帰宅試験を行ったが,症状の再燃はなかった.
防水スプレーによる肺障害は急性の肺障害であり,換気の悪い室内で使用した後に生じやすく,症状は吸入直後から3時間以内に生じることがほとんどとされている1).本症例でも扉を閉めた狭い玄関でマスクを装着せずに防水スプレーを使用した直後から咳が生じたとのことであった.
病理学的な検討では肺胞隔壁の肥厚を認めた報告1)があり,また肺機能の変化に着目した報告では細気管支病変が示唆されている2).そのため本症例もモザイクパターンのすりガラス影を呈したと考えられる.
モザイクパターンでは,肺胞中隔病変による可能性(例:急性過敏性肺炎),細気管支病変による可能性(例:急性過敏性肺炎,閉塞性細気管支炎),血管病変による可能性(例:慢性血栓塞栓性肺高血圧症)があるため,臨床情報と付随する画像所見を加味して鑑別をあげる必要がある.
びまん性肺疾患には多種多様な疾患が含まれ,その鑑別には難渋することがしばしばあるが,本症例のように詳細な病歴聴取と背景病理を考えた画像の読影を行うことが正確な診断の一助になるといえる.