胸部単純X線写真では左下肺野は透過性が低下しており(図1○),腫瘤とその末梢の無気肺が疑われる.両側のcostophrenic angle がdullで胸水貯留が疑われる.右肺底部の横隔膜と重なる部位に腫瘤影(図1→)を認める.またその周囲には網状影がみられ,既存の間質性肺炎と思われる.
入院4カ月前に施行されたCTでは従来からある両肺野のすりガラス影と多発嚢胞(図2→)に加えて新たに腫瘤性病変(図2○)を左肺下葉に認めていた.両肺野のすりガラス影と多発嚢胞はSjögren症候群に合併する間質性肺炎によるものであり,lymphocytic interstitial pneumoniaと思われる.これらから,胸部単純X線写真で見られた腫瘤性病変についての診断が求められる.
まず,腫瘤影について鑑別を進めていく.慢性間質性肺炎の患者は肺がんのリスクが7〜14倍と高いことが知られ,特に線維化や気腫性変化のある部位に生じるとされている.本疾患でも線維化や気腫性変化のある部位に腫瘤影が生じており,肺がんは強く疑われる疾患の1つである.一方でSjögren症候群の患者の肺野に結節・腫瘤影が生じた場合には悪性リンパ腫,アミロイドーシスなどが考えられる.その他の鑑別としては,既存の肺構造が壊れていることやステロイド長期内服歴があることから,アスペルギルスを中心とした真菌感染があげられる.
本症例では血液検査でLDHが著明高値であり,追加で施行した血液検査で可溶性IL-2Rが5,536 U/mLと著明に上昇していたことから悪性リンパ腫を第一の鑑別として考え,以前の気管支鏡で診断がつかなかったことを考慮しCTガイド下生検を施行した.また,胸水貯留も認めたため,感染の除外と診断および病期判定の目的もかねて左胸腔穿刺を施行した.CTガイド下生検の結果,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の診断となり,胸水所見もADA高値かつリンパ球優位であり,細胞診でもClassⅤであり,リンパ腫による胸水と診断した.
Sjögren症候群では悪性リンパ腫の罹患率が健常人に比較して高頻度であり,肺に限らず腫瘤性病変を認めた場合には悪性リンパ腫を鑑別に入れる必要がある.また,本疾患ではさまざまな種類の間質性肺炎に加えて,気道病変の頻度も高く多彩な肺病変を呈するので鑑別に苦慮するが,結節・腫瘤影を見た場合には,リンパ腫,アミロイドーシス,nodular lymphoid hyperplasiaの3つが重要である.
肺原発の悪性リンパ腫の頻度は悪性リンパ腫全体の1%ほどといわれ,稀である.診断は必ずしも容易ではなく,気管支鏡だけでは不十分なことが多い.また,悪性リンパ腫は治療をしなくても自然に縮小するspontaneous regressionがみられることも知っておく必要がある.胸水の貯留を見た場合,その胸水所見としてはリンパ球優位,ADA高値が特徴である.同様の所見を呈するものとして結核性胸水,関節リウマチによる胸膜炎の胸水があり鑑別を要する.