敗血症性肺塞栓症(septic pulmonary embolism:SPE)とは,一次感染源となる肺以外の臓器から病原菌を含んだ塞栓物が血行性に散布され,肺動脈経由で肺血管に詰まることで肺梗塞や肺膿瘍を生じる疾患である.SPEの胸部X線写真は多発性結節影が典型的で,斑状影,浸潤影,空洞影,胸水貯留を認める場合もある.胸部CTではそれらの所見がより詳細に観察でき,特徴的な両側肺野末梢の多発性結節影(図2→)のほかに,結節に引き込まれるように肺動脈が流入しているfeeding vessel sign(図2→)を認める場合もある1,2).
SPEは前述のようにさまざまな原因で起こるが,本邦では麻薬などの静注薬物の常用は稀であり,近年は血管内留置カテーテルや心臓ペースメーカー感染による発症の増加が指摘されている2).また歯性感染症(虫歯や歯周病が原因で細菌性の炎症が周囲の組織まで波及する疾患)は文献上の報告数は少ないが,実臨床で遭遇する頻度はそれほど珍しくはない.診断は,血液培養を提出したうえで,これら一次感染源の検索をする.本例は重度の歯周病と多数の抜歯適応歯を認めており,その他の原因は認めず,歯性感染症によるものと診断した.口腔内感染部位,血液培養から起炎菌は同定できなかったが,一般に歯性感染症によるSPEは培養陽性率が低い3)といわれている.
歯性感染症によるSPEは予後良好3)とされており,本例も抗菌薬投与と口腔内病変の治療により軽快したが,その他の原因の場合は必ずしも予後はよくない1).SPEは稀な疾患ではあるが,知っていれば診断はさほど難しくはない.早期に感染源を特定し治療することで治癒がめざせる疾患であるので,臨床医は本症の特徴的な胸部画像所見および臨床像を知っておくべきである.