画像診断Q&A

レジデントノート 2022年5月号掲載
【解答・解説】SARS-CoV-2ワクチン接種後,急激に増悪する咳・息切れで受診した50歳代女性

ある1年目の研修医の診断

両肺野でびまん性に,粒状影の増加や斑状影の出現を認めます.既知の気管支拡張症が増悪したようにも見えますが…肺炎の合併もあるでしょうか? CTを撮って詳しく調べてみようと思います.

Answer

SARS-CoV-2ワクチン接種を契機とした気管支拡張症・閉塞性細気管支炎の増悪

  • A1:胸部単純X線写真(図1)では両肺びまん性に粒状影の増加を認め,既存の気管支拡張症・閉塞性細気管支炎の急性増悪を考える.
  • A2:気管支拡張症急性増悪として抗菌薬治療を行う一方で,SARS-CoV-2ワクチン接種を契機とした宿主免疫の撹乱・肺病変増悪があると想定し,過剰な宿主免疫を抑え込むためにステロイドパルスによる治療追加を検討する.

解説

胸部単純X線写真(図1)では,両肺に微細粒状影が増加し,また区域性に分布する斑状の浸潤影もみられる.胸部CT(図2)では,肺野にびまん性に粒状影・浸潤影が増加しており,また局所の気管支を中心とした小浸潤影も散見され,細気管支炎の増悪,一部気管支肺炎と考えられた.ワクチン接種を契機とした気管支拡張症・閉塞性細気管支炎の増悪と考え,抗菌薬投与とステロイドパルスを施行した.これにより,症状は大きく改善,炎症反応は低減し,胸部画像所見は改善した(図3).

既存の慢性呼吸器疾患が,SARS-CoV-2ワクチン接種後に急性増悪したという報告は,本邦でも増加しつつある1).この機序として,現在用いられているSARS-CoV-2ワクチンは,史上はじめて人類に広く用いられたmRNAワクチンであり,従来のワクチンと異なり,宿主の免疫機構に強く働きかける可能性があげられる.mRNAワクチンは,抗原提示細胞に取り込まれ,翻訳された抗原タンパク質によって,獲得・自然免疫双方に働きかけ,抗ウイルス免疫を構築する.本症例ではこうしたワクチンの免疫に対する作用が,定着菌と宿主免疫の平衡で成り立つ気管支拡張症2)の病態に干渉し,宿主免疫を撹乱した可能性がある.実際,オランダの免疫学者のグループの研究で,SARS-CoV-2ワクチン接種者の血液サンプルを用い,さまざまな微生物で免疫細胞を刺激して放出された炎症性サイトカインを調べた結果,SARS-CoV-2ワクチンが獲得免疫だけでなく,自然免疫システムをも改変させることを示した報告があり,WHOの論文サイトにも掲載されている3)

このように,最終的な因果関係を示すことは難しいが,SARS-CoV-2ワクチン接種を契機として何らかの免疫撹乱が生じ,呼吸器疾患が急性増悪することがありうることを臨床の場にある医師は認識しておくべきだろう.今後SARS-CoV-2ワクチン接種を検討する患者がさらに増えるにつれて,既存の慢性呼吸器疾患を有する患者では,慎重に適応の吟味が必要と考えられる.

図1
図2
図3
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引用文献

  1. Amiya S, et al:Case report:Acute exacerbation of interstitial pneumonia related to messenger RNA COVID-19 vaccination. Int J Infect Dis, 116:255-257, 2022(PMID:35065256)
  2. 徳田 均:気管支拡張症の最近の話題.老年内科,4:618-625,2021
  3. Föhse FK, et al:The BNT162b2 mRNA vaccine against SARS-CoV-2 reprograms both adaptive and innate immune responses. 2021

プロフィール

石黒賢志(Kenji Ishiguro)
JCHO東京山手メディカルセンター リウマチ・膠原病科
徳田 均(Hitoshi Tokuda)
JCHO東京山手メディカルセンター 呼吸器内科

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