小噺その1:初めての科研費 Aくんの場合

 科研費という研究助成があることは学生のころから知っていたが,私もそれを出せるような身分になったときにはウキウキしたものだ.それまで研究助成申請をしたこともなく,「よっしゃ~,最初から絶対とったるで!」そう意気込んで,まずは先人の知恵をと,所属研究室の諸先輩達から申請書のコピーをいただいた.どれも採択されているだけのことがあり,同様な体裁の書式が並ぶ.「こう書けばいいのかぁ.よし,こんなふうに書いたろ!」

 私は奨励研究(A)(今はない種目区分)という助成が対象だった.ザッと書いてみた.意外に難しかったのが2年間の研究計画を立てるところ.どこまで1年間で進むんやろ? 2 年目は何をする? これまでの研究の進行度合いを参考にしながら内容を推敲した.よし! 一応全体は完成.次の悩みはこれをどの分野に申請するか.申請内容は新しいバイオアッセイを使ったホルモン探索だった.先輩達のものを参考に「内分泌学」にしてみた.そこが鬼門だったのか? そもそも内容が悪いのか?

 この年は撃沈である.それから3年間,内容を変え,分野を変え,試行錯誤したが撃沈され続けた.そして苦節4年,若手研究(B)(今はない種目区分)に初当選した.「やっとか~,長かった~」そんな思いが最初だった.

 テーマは業績にもとづく萌芽的なものであったが,申請書の表現力も上がっていたし,分野の選択も適切だった.落選したものと当選したものの差は歴然であった.審査委員に一見一読でインパクトを与えられるような表現,そして,「これに助成をしてあげよう」と思わせるような魅力的な内容,相手の身になった文章構成,それこそが科研費獲得の近道なのだろうと肝に銘じた.

科研費小噺 〜十人十色の体験記〜:目次

児島 将康

(久留米大学 分子生命科学研究所)

書籍「科研費獲得の方法とコツ」「科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック」著者.毎年の公募シーズン前後に20件近くの科研費セミナーで講演.理系・文系を問わず申請書の添削指導も行っており,指導した人の採択率は6~7割にもなる.

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