小噺その5:初めての科研費(Cくんの場合)

 大学院を卒業してそのまま同じ研究室でポスドクになった1年目の秋.ボスから「科研費の申請書を書きなさい」と言われました.それまで,研究費は「先生」といわれる人がとってきてくれるもんだと思っていた私は,少々戸惑いながら自分なりに書いてみました.日ごろ,書き物の添削はほとんどしてくれないボスでしたが,このときは真っ赤っかになって返ってきました.

 それからしばらくして「ポスドクの契約は1年だから次,どっか探してね」と突然言われました.それまで,次どこに行くとかは「先生」といわれる人が探してくれると思っていた私は,少々戸惑いながら自分なりに何カ所か面接を受け,3月の春休みに引っ越しました.

 全く知らない土地で,新しいボスと全く知らない人たちに囲まれ不安でいっぱいの4月初旬,科研費採択のお知らせをいただきました.研究費は自分がとらなくても部屋のボスがいっぱいとってくれるから落ちても大丈夫だと安易に考えていましたが,今にして思うとなんとありがたかったことか.やっぱり自分の研究費があるのとないのとでは,気持ちの余裕が全然違いました.自分の欲しい試薬を買うとき,行きたい学会があったとき,ボスにお伺いを立てるのはちょっとストレスでしたが,研究費をもっていると比較的気楽にお願いすることができ,当時,とても嬉しかったことを記憶しています.これは前のボスからのプレゼントだったんだろうなぁと思いました.

 5年間,その研究室に所属しましたが,ボスに「いつ異動してもいいように自分の科研費で異動先で必要な物を買っておけよ」とよく言われました.自分が次行く先には「先生」といわれる人がすでに機械をいっぱいそろえてくれていると思っていた私は,少々戸惑いながらも遠心機は自分専用のがあったら便利だから買っておこう,という感覚で何点か備品を購入しました.

 そして今,特任助教という身分ながらテニュアトラック制度というなかで独立して研究しています.学生さんや補助員さんに「先生」と言われ少々戸惑いながらも,移管手続きをしてもってきた科研費で買った備品に囲まれながらなんとか生きています.これもまた前のボスからのプレゼントだったんだなぁと思いながら.

科研費小噺 〜十人十色の体験記〜:目次

児島 将康

(久留米大学客員教授,ジーラント株式会社代表取締役)

書籍「科研費獲得の方法とコツ」「科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック」著者.毎年の科研費公募シーズン前後に20件近くの科研費セミナーで講演し,理系・文系を問わず申請書の添削指導を行っている.令和6年4月より研究者を支援するジーラント株式会社(https://g-rant.org/)を立ち上げ,活動している.

科研費に関する書籍・ウェビナーや制度の変更点など,科研費申請に役立つ情報を発信しております.
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