目指せ!病理に強い臨床医!

最終回 “コンサルテーション”と考えよう! -病理診断科との付き合い方:検体提出~カンファレンスまで-

これまで5回の連載で,病理に強い臨床医になるための提案を行ってきた.誌面の都合もあり各回で扱う情報量には限りがあるが,それぞれのテーマを発展させれば,病理に詳しくなることは間違いないと思う.ただ,これだけでは実際の病理診断には不十分な面もある.それは,病理の検体の採取・処理から診断結果が出るまでに気配りして,病理検体から最大限の情報を引き出し,適切な診療方針をたてられる医師こそが「病理に強い臨床医」といえるからである.ここで重要になるのが,病理医と臨床医の情報共有であり,お互いの気配りでもある.その辺りの非学問的なことについて今回は考えてみる.

1 病理検体から適切な病理診断を引き出すために

1)組織片も患者さんの体の一部

病理検体の扱いについての注意点は,小さな針生検や鉗子生検から手術切除検体まで,基本的には同じである.しかし,特に生検検体は扱う検体が微小であり,不注意によってダメージを受けやすく診断に影響しやすいので,より一層の配慮が必要である.

生検標本を扱う際には,挫滅させない,乾燥させない,紛失させない,コンタミさせないことなどが重要である.

図1 検体採取時に生じる修飾

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検体採取時にすでにある程度の挫滅,伸展や焼灼(熱)変性などの修飾が加わっている可能性があるが(図1),それに加えて検体を固定ビンに入れる際にピンセットで強くつまんだり,肝臓の針生検検体などのように細長い検体の端だけをつまんで引っ張るようなことは避けたい.小さい検体は,ピンセットの先を生食かホルマリンに浸し,そのピンセットの先についた液の表面張力を利用して検体を扱うとアーティファクトが少なくなる.小さな検体を濾紙に付着させて固定ビンに入れる場合は,濾紙に付着させたらすぐに固定液に入れなければ,濾紙が水分を吸ってしまうために検体の乾燥が進んでしまう.また,いくら小さな検体でも,それぞれが患者の一部であり,それらが症例間でクロスしたら患者取り違えと同等の重大事である.

ある病院でこのようなことがあったという.同じ科から2人の患者の生検検体が同時に病理部門に提出された.その受付係が,検査申込書にもとづきビンの中身を確認したところ,1人の患者の名前が書かれたビンには2個の組織片が入っていたが,もう1人の患者のビンにはホルマリンは入っていたが組織片が見当たらなかったらしい.そのことを,検体を持ってきた若い看護師に指摘すると,「あーっ,さっき検体を入れる時にビンを間違えました.」というなり,片方のビンの蓋を開け,2つの検体の内の一個を取り出し,もう一方のビンに入れたのだそうだ.そして,受付の人に向ってこう言ったという.「大丈夫です.2番目に採った○○さんの検体の方が少し大きかったと思いますから."たぶん"こっちが○○さんのモノだと思います」.

この事例は,検体搬送に関わった看護師のミスだが,医師が当事者である類似ケースもときどき耳にする.また,そもそも検体を採取した検査医は検体のその後にまで気を使う必要はないのだろうか.結局,この件は,患者の検査医が呼び出され,話し合いの結果,病院の医療安全室にはインシデントレポートが提出され,患者には担当医が十分説明したうえで,再度の生検が行なわれたとのことであった.

見た目に同じような小さな組織片であるが,それぞれの患者の体の一部であることを決して忘れてはならない.

2)自家融解を防ぐ

図2 自家(自己)融解による修飾

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病理検体が患者の体の一部であることを強調したが,生体の一部分と異なることもある.それは,組織が体から切り離れた瞬間から血流がなくなり,組織は変性壊死のプロセスに入っているということである.この過程で,細胞から各種の酵素などが放出され自分の組織・細胞の消化が行われ始める.これを自家融解(または自己融解),autolysisと呼ぶ.それが進むと組織は融解状になっていく.これを顕微鏡を通して見ると,組織はベターッと一様に染色性を失ったり,元々の構造すらわかりにくくなっている(図2).また,生体内で虚血が生じた際には炎症細胞の浸潤などの生体反応があるが,自家融解の場合は見られない(これは病変としての変性・壊死であるのか,自家融解であるのかを見分けるための大きな所見といえる).さらに検体をそのままにしておけば,腐ってしまう.

病理診断は形態変化を捉えて診断を行うものであり,その組織形態をゆがめてしまうことは極力避けなければならない.そのためには,検体が採取されたら,なるべく早くホルマリンに浸して固定し,その時点での組織構築を保持することが必要である.

3)患者を他科へコンサルトするつもりで

病理検体提出の不備(アーティファクトや固定不良など)のほかに,診断に影響を与えかねないこととして,病理検査申込書の不備がある.臨床診断や経過などを全く書かない臨床医はもちろん少ないが,不十分な記載は数知れない.これはどの施設の病理医に話を聞いても同じようなことをいう.

表 病理検査申込の際に伝えるべきこと

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病理診断は,組織形態像から抽出されたいくつかの所見を結びつけながら総合的に評価して診断を下すものである.それぞれの所見の評価には主観的要素を完全には排除できないため,病変や場合によっては病理医によっても,組織型はおろか良性であるか悪性であるかの診断結果が食い違うことすらある.したがって,このような病理診断の弱点ともいうべき特徴を十分に知ったうえで,病理診断を申し込む必要がある.そして,そのような弱点を補うために臨床情報の提供が必要なのだと理解していただけたらと思う.これは,たとえば,「腹痛」を訴えて来院した患者の年齢が70歳の男性であるか若い女性であるかでも,1週間前から断続的に生じているのか数時間前からなのかでは鑑別疾患が変わってくる臨床の現場と基本的に同様のことだと思う.

また,患者情報だけでなく,検体情報も重要である.臨床経過(特に過去の診断や治療の有無や内容)や臨床診断に加え,生検であれば採取部位,手術切除検体であれば切除範囲や検体の向き(オリエンテーション)は必須である().

結論として,病理診断を依頼するときには,自分の患者を他科へコンサルトするときと同じ気持ちで十分な情報を添えて送り出してほしいものである.

2 情報を持ち寄る臨床病理カンファレンスのすすめ

図3 臨床と病理のあるべき関係

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検体への心配り,病理診断のための情報提供の必要性などを述べたが,これらが不足(あるいは欠如)する原因は何であろうか?もちろん,日常業務の忙しさも理由の1つだろうが,病理診断についての認識不足や認識にズレがあり,その原因としては,日頃の病理医と臨床医のコミュニケーション不足が背景にあるのではないかと考えられる.もちろん,すべての症例について口頭で連絡し合うことやカンファレンスで話し合うことは物理的に難しいが,病理検査依頼,病理診断報告の多くは文書のやり取りまたはオンラインで行われることが多いため,情報量は少なく,またポイントがわかりにくい場合が少なくない.

そこで,その1つの解決策として,臨床病理カンファレンスの定期的開催をあげておきたい.カンファレンスの定期開催にも週単位,月単位とさまざまなものが考えられるが,最も重要なことは,日ごろから顔を合わせお互いの信頼感を得ておくことであり,カンファレンスはそのきっかけということもできる.これにより,いざという時のお互いの対応が違ってくることはもちろん,このような連携が取れるようになれば,臨床サイドも病理サイドも満足を得られるし,もちろん最終的には患者の利益につながるのである(図3).ぜひ,臨床医も病理医もまずはお互いの満足のために対面の機会をつくる努力をしたいものである.

3 さいごに

疾患の病理を学ぶためには,すでに多くの書籍が出版されているので,そのときどきでそれらを参照していくのがよいだろう.そして,「病理に強い臨床医」になるためには,書籍を参照しながら,そのときどきで,病理医と情報の共有を行うことが重要と思われる.

臨床医が「病理に強く」なるべき目的は,病理診断を患者の診療方針に十分に活かせるようになるためであり,実際には,病理診断室にもことあるごとに足を運んでくださることを期待しながら,本連載を終えたい.

病理Quiz

薬物療法後の腫瘍組織・細胞の変化として,あまり見られないのはどれか?

a) 細胞質の好酸化, b)異型核分裂像の出現, c) 核の断片化, d) 核小体の明瞭化, e) 核の多形化

癌に対する薬物・放射線療法の組織学的効果判定は,治療前の腫瘍の大きさを推定して行う必要がある.組織学的に,治療前の腫瘍の範囲を推定する手掛かりとしてどのような所見があるか?

Q1 Answer

薬物療法後の腫瘍組織・細胞の変化として,あまり見られないのはどれか?
a) 細胞質の好酸化, b)異型核分裂像の出現, c) 核の断片化, d) 核小体の明瞭化, e) 核の多形化
A. C.ほとんどの癌腫の腫瘍組織・細胞に薬物療法後に共通して見られる変化として,細胞質の好酸化,空胞化,細胞膜の消失,核の膨大化,多形・多核化,核の濃縮・崩壊,核小体の明瞭化,奇怪な核や異型核分裂像の出現,などが挙げられる.

Q2 Answer

癌に対する薬物・放射線療法の組織学的効果判定は,治療前の腫瘍の大きさを推定して行う必要がある.組織学的に,治療前の腫瘍の範囲を推定する手掛かりとしてどのような所見があるか?
A. 線維化組織,肉芽組織など.これらの存在は,以前に腫瘍間質として存在していた線維組織が残存している可能性や,腫瘍消失後の組織修復過程で出現した線維化,肉芽組織の可能性を示唆する.ただし,病変全体が縮小すること多いので,消化管癌の場合,治療前の内視鏡所見や透視像を参考することが勧められる.

プロフィール

福嶋 敬宜(Noriyoshi Fukushima)
自治医科大学附属病院 病理診断部 教授・部長
宮崎医科大学1990年卒.関東逓信病院レジデント,国立がんセンター中央病院医員などを経て,米国ジョンズ・ホプキンス大学研究員として膵癌の研究に従事.東京大学大学院准教授を経て2009年9月から現職.病理専門医,細胞診専門医.日本病理学会評議員,WHO消化器腫瘍(膵)分類作成委員.著書に,『臨床に活かす病理診断学 消化管・肝胆膵編(第2版)』(編著,医学書院,2011),『その「がん宣告」を疑え-病理医だから見分けるグレーゾーン』(講談社,2010),ほかがある.
病理と基礎研究,病理と臨床そして病理と患者をつないでいくことで,医療の質向上に貢献していくことを目指している.

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