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研究成果を活かすには,まず社会と向き合って

林 真理
林 真理(Makoto Hayashi)
工学院大学工学部人文研究室助教授

東京大学大学院理学系研究科博士課程中退.専門は科学史・科学技術社会論.日本における生命倫理論争および生命科学技術の社会的受容過程の歴史的研究を行う.著書に『操作される生命 科学的言説の政治学』(NTT出版 2002年),共著に『生命科学の近現代史』(勁草書房 2002年),『公共のための科学技術』(玉川大学出版部 2002年),『いのちの倫理学』(コロナ社 2004年)がある.

次々と原理的に応用可能な新技術が開発されている一方で,その成果が必ずしも実社会で十分に活用されるわけではありません.そのためには,その技術の意義や必要性,安全性が社会的に認知されることが必要な場合もあるからです.私の専門である科学史・科学技術社会論は,科学発展の歴史や社会的背景をもとに,現代の科学技術と社会のあり方を考えていくものです.

● 科学の社会性にかかわる問題

科学と社会とのつながりの問題には,2つの側面があります.1つは研究成果が社会に与える大きな影響,もう1つは研究資金の出所としての税金です.ところが,2つともある共通した問題を抱えています.前者では例えば,遺伝子組換え作物は確かに合理的な技術であり,収量が上がり農薬使用も減ると主張されます.しかしそれはあくまでも研究者が定めた目的における合理性で,その他の人の価値観にとっても好ましい成果かというと,わからないところがあります.後者では例えば,税金の使途は様々な事柄を吟味して決定されるはずですが,公共事業などの場合と違って,その使途が専門家外であまり議論になりません.

(中略)

● バイテクの歴史と社会の変化

世界で組換えDNA実験が始まったのは1970年代ですが,1982年に筑波で組換えDNA実験用のP4施設の建設に大変な批判が出ました.結果は科学者が妥協を余儀なくされました.また,食品への放射線照射の例でも批判意見が多く出ました.結果として1972年にジャガイモでのみ許可されていますが,一方で放射線殺菌は効果が高く,食料不足の場所へ運ぶことで世界の飢饉を救える画期的な技術だから,反対するのはおかしいという主張もありました.現在の遺伝子組換え作物の問題はこれらと似ていますが,議論の規模は大きくなっています.

(中略)

● 社会に活きる科学とは

人は,とりわけ親は子育ての中では,何が起きるか不明な新しいものに対して寛容ではありません.ひょっとしたら良いものかもしれないけれど,本当にそれを使わないと困ることがあるのか,という疑問に適切な回答を提供できなければ理解は得られません.例えば,予防接種にはリスクがありますが,ほぼ誰もが受けています.もちろん初期には(今でも),不信感を持つ人は多数いました.しかしそれでも,「ないと困るもの」として開発された技術はそれなりに浸透していったわけです.

(続きは本誌で)

バイオテクノロジー ジャーナル2006年11-12月号掲載
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