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トップページ > キーパーソンインタビュー > 【インタビュー】西村善文×西島和三
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【インタビュー】
NMRがリードする創薬と技術開発の新たなサイクル
〜アカデミックの先端研究施設を開放するプロジェクトが発進〜

西村善文
西村善文
(Yoshifumi Nishimura)
横浜市立大学大学院国際総合科学研究科 教授
西島和三
西島和三
(Kazumi Nishijima)
持田製薬株式会社医薬開発本部 主事

1971年東京大学薬学部卒業,1973年東京大学大学院薬学系研究科修士課程修了,1976年薬学博士(東京大学),東京大学薬学部教務職員,助手,助教授を経て1989年横浜市立大学大学院教授,転写因子や基本転写因子やクロマチン関連因子の構造をNMRで解析している.認識にはフレキシブルな領域が必須であり標的に結合すると固くなる事や極端な場合はフリーでは天然変成状態であることをNMRによる動的構造で解析している.

1980年東北大学大学院理学研究科修士課程修了,同年持田製薬株式会社入社,新薬探索業務を経て,現在は企画業務を担当.横浜市立大学 客員教授,東北大学 客員教授,東京大学 特任教授,日本製薬工業協会研究開発委員会 専門委員,科学技術学術審議会研究計画評価分科会委員,NEDO技術委員,日本薬学会薬学研究ビジョン部会常任世話人,疾患プロテオミクス研究会常任理事 等.担当テーマ:産学官連携を通じた創薬研究の基盤整備推進.

研究成果を産業へ活かすために産学連携の強化が求められている.共同研究や寄付講座などのアプローチはよく行われているが,いま新たな試みとして,アカデミックの研究施設とノウハウを産業界へトランスファーする「先端研究施設共用イノベーション創出事業」(文部科学省)というプロジェクトが発進しようとしている.同プロジェクトは2007年から開始され,参画機関として採択されたアカデミックの研究施設を民間企業が無償で利用できるというものである.そのなかで横浜市立大学と理化学研究所が共同して,両機関の持つNMR施設を民間企業へ開放することが決まっており,企業から利用課題を募集しようとしている.今回,本課題のアカデミック側の立役者である横浜市立大学の西村善文教授と,本課題の審査委員である西島和三氏にお話を伺ったので紹介する.(編集部 米本智仁)

●先端研究施設共用イノベーション創出事業

−どのようなプロジェクトでしょうか.

西島 大学等にすでにある先端研究施設を産業界に開放し,広く使ってもらおうというプロジェクトです.以前から播磨のSPring-8でも類似したプロジェクトが行われていまして,非常に評判良く進んでいることを受けて発進したプロジェクトです.本プロジェクトの骨子は,企業に先端研究施設の有用性を知ってもらうために,施設の利用費用を国(文部科学省)が負担するトライアル期間を設けようというものです.例えば,年間2回あるいは2年間は無償利用とし,3回目または3年目からは企業が費用を負担する有償利用として研究施設の機材を利用してもらうということです.

−プロジェクトの予算は無償利用に充てられるわけですが,金額はいくらですか.

西村 細かい配分は公表されていませんが,全体予算として産業戦略利用には1年目に14億円が充てられます.ちなみに5年間のプロジェクトです.

−同じ文部科学省のタンパク3000プロジェクトやターゲットタンパク研究プログラムと比べると規模は小さいですね.

西島 その違いは,本プロジェクトでは新規に機材を買うわけではないというところにあります.アカデミックに今ある機材を活用しようというプロジェクトですから.したがって,予算は企業の研究者に指導を行うポスドク等の人件費や解析に使う消耗品,電気代等に充てられます.これまで予算化されてこなかった部分を焦点とした,かなり新しいものです.

(中略)

−コストやノウハウという大きな課題の中,なぜNMRなのでしょうか.

西島 実は製薬業界は,タンパク質の構造決定には,これまではX線結晶回折を利用してきました.解析できるタンパク質の分子量も大きく,手法もかなり確立されていますから.しかし,そこから一歩進んでタンパク質の機能を解析しようとなると状況が変わります.タンパク質と低分子化合物の相互作用やその機能を担うゆらぎ部分というタンパク質の柔らかい部分の解明が重要なのですが,そういう機能部分を調べるときには,結晶化を必要としないNMRが有効です.

西村 X線結晶回折の場合はタンパク質を結晶化することが必須です.しかし,本来は細胞という水溶液中に存在するタンパク質がうまく結晶化するかどうかというのは,タンパク質の性質次第です.一般的に,特に真核生物に多いのですが,機能部分として重要な動的な柔らかい構造をもつタンパク質は,結晶化しにくい傾向にあります.ですから結晶化できるタンパク質についてはX線で構造解析ができますが,そうではないタンパク質には溶液中での解析ができるNMRが最も有効ですし,また最近タンパク質の機能上重要性が指摘されている動的構造も解析できます.

(中略)

●求めるのは産業成果を見据えた応募課題

−公募の状況はいかがですか.

西村 まだ公募要項の素案ができたばかりのところです.他の公募課題と違って連携しながら取り組んでいくということもあり,理化学研究所とも細部にわたって調整が必要です.調整が終了したらすぐにでも利用を始められるように,公募と選定を進めたいと思っています.

(中略)

−利用課題の応募においてどのような点が重要になりますか.

西島 今後の課題選定委員会において採択基準等の詳細が協議されると思いますが,イノベーション創出事業として相応しい課題を選ぶべきです.私としては基準を2つ考えています.1つは本当に高分解能のNMRを使う必要があるテーマなのかということです.もう1つは,産業利用が目的なので,その波及効果の大きさを考慮したいということです.例えば,プロジェクトによる無償利用期間が終了後も引き続き有償で利用していくというような,真に開発利用を見据えているかということです.

(中略)

●産業界での利用実績が新たな開発サイクルを産み出す

西島 本プロジェクトのゴールは明確で,有償で使ってくれる企業ユーザーを獲得することです.企業は役に立たないものにはお金を出しませんから,有償でも使われたという実績はNMRの有用性の証明となりえます.

西村 そうして,800MHzや900MHzのNMRの有用性を認めてもらえると,次は950MHzとか1,000MHzといったNMRの開発に繋がります.NMRによる構造解析が産業界にどのように役に立つのかと訊かれたときに,本プロジェクトで実際に使ってもらって有効だったと回答できるようになれば,それは企業にもメリットがあるだけでなく,アカデミックのメリットにもつながっていくわけです.

(続きは本誌で)


バイオテクノロジー ジャーナル2007年9-10月号掲載
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