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※ご所属は最新インタビュー掲載時のもの
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科学研究を豊かにするプラスαの視点
生命科学とは,生命とは何か,を考える学問です.『細胞』は学んで初めて意識される専門用語ですが,『生命』は自然言語で,誰もが自然な概念として知っています.生命科学は,そうした多義性を持った『生命』を理解する重要な手段です.実験科学には,誰にでも明確な手段を用いて真理を解明できる素晴らしさと強みがあります. でも,生命観といったところまで範囲を広げると,それだけではアプローチできない部分がどうしても出てきます.その場合,科学の渦中から一歩身を引いて,科学そのものを文化や歴史の観点から紐解く科学の文化誌研究が重要になってきます.人間が生命について何を思い,どのようにそれを探求・表現してきたのか,その歴史や現状を正確に把握することも,「生命とは何か」について考えるうえで絶対に必要だからです. ● 異分野同時並行というスタンスそのために,というだけではありませんが,私自身は様々な研究・創作活動を行っています.皆さんに馴染みの深い自然科学では,バクテリアの体内時計とパターン形成を研究しています.関連因子を特定し,数理モデルで因子間のネットワークを解析し,実験で検証する研究です.一方で,文化誌の観点から科学と社会・歴史との関係を調べています.しかし,一番キャリアが長いのは8歳から続けている切り絵という手法を用いた,抽象的な造形作品の制作(現代美術)です.こうした複数の活動を通じて様々な視点を持つことは,科学や生命を考えるうえでもとても重要だと思います. (中略) こうして,科学やアートの特性や長所を改めて実感できるようになる.このように,一見違う分野でもそれぞれの観方を批判的に参照しながら,多面的に探求していく『異分野同時並行』研究が私のスタンスです. ● 多様な視点が導く科学の方向性さて,生命科学には細胞機能を構成しながら理解しようとする側面があります.酵素活性やDNA複製などを試験管の中で再現することは生化学の本領ですし,現在では細胞分子のネットワークをデザインする構成生物学が台頭しつつあります.そして,その延長線上には,人工的に細胞を作ろうとする研究が垣間見えます. (中略) でも,何を作ったら『細胞』と認められるのでしょうか.月に行く,という明確な目標とは異なり,どこまで再現すれば『細胞を創る』という目標が達成されるかは自明ではありません.このように,この課題は,細胞とはそして生命とは何かを考えることを常に要求します.生命科学にとって非常に深い問いであるとともに,実現するとなれば私たちの生命観を揺るがす可能性を持っています.ですから,基礎的な研究であっても,社会・文化の観点からも問い直されるべきでしょう. (中略) ● 情熱を傾ける対象と,プラスα私は学生の頃,実験にたくさんの時間を注ぎ込みましたが,同時に,できるだけ哲学・歴史の本を読み,美術創作に向かうことを自分に課していました.それが今の研究の豊かさと楽しさに繋がっていると思っています.1つのことに全力で集中しつつ,プラスαで何か違うところを本気で追求する過ごし方もあることを,多くの方,特に学生に知ってほしいですね 続きは本誌でご覧下さい バイオテクノロジー ジャーナル2007年1-2月号掲載
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