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【スペシャル対談】
日本の医療機器の研究開発と制度の動向

土屋利江
土屋利江
(Toshie Tsuchiya)
国立医薬品食品衛生研究所療品部長
俵木登美子
俵木登美子
(Tomiko Tawaragi)
厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長

1988年国立医薬品食品衛生研究所療品部室長,医療材料の生体適合性試験法開発,細胞組織医療機器(再生医療品)等の基盤的研究.2000年同研究所療品部長.医療機器・再生医療品のガイドライン作成と医療材料開発等.産官学連携プロジェクト研究を行い,先頭を行く医療機器開発の推進に努めている.

1981年東京大学薬学部卒業.同年厚生省入省.2001年医薬品医療機器審査センター審査第四部審査管理官.2003年医薬食品局安全対策課安全使用推進室長.2004年環境省総合環境政策局環境保健部企画課保健業務室長.2006年厚生労働省医薬食品局審査管理課医療機器審査管理室長.

日本の技術力を礎に,新たな医療機器の研究開発が進められているが,そのシステムには様々な課題も指摘されている.開発の推進と審査の迅速化を目指し,平成17年に厚生労働省と経済産業省の共同で「次世代医療機器評価指標検討会/医療機器開発ガイドライン評価検討委員会」が設置された.評価指標の策定によって,医療機器の開発は今後どのように進むのか? 再生医療をはじめとする新たな技術はどこまで実用化しているのか? そこで本対談では,次世代医療機器検討会の審査ワーキンググループ事務局長を務める土屋利江氏と,厚生労働省で医療機器の承認申請の制度改革に従事される俵木登美子氏をお迎えし,日本の医療機器の動向をうかがった.(編集部 一戸敦子)

●医療機器とは?

−医療機器の定義をお教えください.

俵木:医療機器は安全性,有効性と品質を確保して提供されるよう,薬事法によって規制を受けています.基本的には医薬品と同じように目的で定義されており,疾病の診断・治療・予防のために使われるもの,または身体の構造,機能に影響を与えるものが該当します.また,具体的に政令で1つ1つ種類が規定されていて,そこに該当するものが医療機器になるのです.それにはメスや救急絆創膏のようなものから,ペースメーカや陽子線治療器のような大型の治療装置までが含まれることになります.

−かなり幅広い範囲に渡っていますが,すべて同じような承認申請が行われているのですか?

俵木:医療機器はリスクに応じて国際的にクラス分類されています.世界的に医療機器の規制を整合しようとする会合(GHTF:Global Harmonization Task Forth)が日米欧豪加の5極で行われ,その中でリスクに応じた医療機器の4分類が整合されました.我が国でも平成14年の薬事法改正で規制の中に取り込んでいます.

クラス1は非常にリスクの低いもので,企業自らが安全と品質を確認して市場に出すことができる自己認証となります.クラス2は1よりややリスクがありますが,国の定めた基準をもとに第三者認証機関で認証を取れば流通できるという仕組みになっています.クラス3と4は比較的リスクが高くて,4はペースメーカや人工心臓のような命に関わるようなものが入っており,後の多くのものが3に分類されています.この3と4については,事前に申請して厚生労働大臣の承認を受ける必要があります.このように,クラスに応じて承認の重さや有効性・安全性の確認の重さが変わってくるのです.

(中略)

●医療機器の研究開発の現状

−承認申請の制度的なお話を伺ってきましたが,その前段階である研究開発の現状をお教えください.

土屋:今まで医療機器は外国製品が多く利用されていました.例えばペースメーカは,日本の企業でも技術はありながら製品としては持っていない.それが何故なのかをよく考えなければなりません.日本の医療機器業界は,比較的小さな企業が多いと思います.医療機器の場合,例えば人工心臓などは様々なテクノロジーが必要で,しかもその開発スピードは非常に早く改良も早い.つまりリスクの高い治療器になればなるほど開発にお金がかかるし人材がいる,というところで不利な状況があったのです.

(中略)

そして日本でも,糖尿病や癌の根本が食品だろうという考えが生まれ,機能性食品が大きなトレンドになったのです.

●細胞組織と再生医療の位置づけ

−細胞や材料は,医療機器の位置づけに含まれているのでしょうか?

俵木:細胞組織を使ったものは,医療機器の中でも一番リスクの高いレベルWに分類されています.例えば,皮膚のような外界とのバリアになる物理的な目的が主たるもの,つまりそれ自体が薬理作用を発揮して効果を達成するようなものでないものに関しては,医療機器に該当すると見なされています.一方で,全身を巡るような細胞を取り出して戻す場合には医薬品になるかもしれませんし,細胞自身から出てくる生理活性成分の効果が目的とされる細胞群は医薬品となるかもしれません.医薬品と医療機器のどちらになったとしても有効性・安全性の評価のポイントは同じです.いずれにしてもリスクの高いところに分類されていて,それは世界でも統一されたルールとなっています.

(中略)

●再生医療の実用化に向けた研究開発とは?

土屋:再生医療の実用化に関しては,大阪大学の吉川秀樹先生,東北大学の西田幸二先生らと一緒にガイドラインを作成しています.2007年2月16日に財団法人ヒューマンサイエンス振興財団の主催で「幹細胞等を用いた細胞組織医療機器の開発と評価技術の標準化」という成果発表会を行います.これは,企業とアカデミック研究者,臨床医と工学系研究者,そして国立医薬品食品衛生研究所が共同で行っているもので,研究成果に合わせてガイドラインづくりを進めているのです.現在,角膜や軟骨,骨や歯科領域で検討を開始しています.

●安全性評価の指標

−それらのマーカーを用いて,今後安全性の基準が作られていくのでしょうか?

俵木:平成12年に「ヒト由来細胞・組織加工医薬品等の品質及び安全性の確保に関する指針」が出され,細胞組織を利用した製品の安全性と品質についての指針が示されました.その内容はほとんどFDAのガイドラインと同様で,科学的に確認すべき事項が定められています.例えば,使用する細胞の由来,ドナーの感染状態,培養液の原材料,製造工程での品質管理,製品の出荷にあたってのエンドトキシンの確認,といった項目が網羅的に示されています.

●次世代医療機器の展望

俵木:平成17年から厚生労働省は経済産業省と連携して次世代医療機器評価指標検討会/医療機器開発ガイドライン評価検討委員会を設置しました.5つの分野について開発の推進と審査の迅速化を目指して新たなガイドラインをつくり,それを通知していくという試みで,審査WGを土屋先生に推進していただいています.ただ,やはり次世代医療機器もまだ評価指標が固まっているわけではありませんので,評価をしてくださる先生方も方法論が難しい分野だと思います.その内容が硬直したものになってしまうと,逆に開発を阻害するようなことにもなるので,緩やかな評価指標を世の中にお示しして,開発や審査の参考になるようなものを示していく必要があるのだと思います.

(続きは本誌で)


バイオテクノロジー ジャーナル2006年5-6月号掲載
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