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【スペシャル対談】
日本のバイオ産業が進むべき道筋
〜「モノ作り」産業としての基盤整備の重要性と,ヘルスケアというもう1つの出口〜

川上浩司
川上浩司
(Koji Kawakami)
京都大学大学院医学研究科薬剤疫学分野教授
徳増有治
徳増有治
(Yuji Tokumasu)
経済産業省製造産業局生物化学産業課長

筑波大学医学専門学群卒,横浜市立大学大学院医学研究科頭頸部外科学卒.医学博士,医師.米国連邦政府食品医薬品局(FDA)生物製剤評価研究センター(CBER)にて細胞遺伝子治療部 臨床治験(IND)審査官,研究官を歴任し,細胞・遺伝子治療,癌ワクチンに関する臨床治験の審査業務および行政指導に従事.東京大学大学院医学系研究科 先端臨床医学開発講座 客員助教授を経て,現職.現在,東京大学大学院医学系研究科 客員教授,シンガポール国立大学薬学部 Adjunct Associate Professorなどを兼務.

1981年東京工業大学卒業後,通商産業省(現経済産業省)入省,1989年新設された生物化学産業課の初代課長補佐として,海洋バイオ,蛋白プロジェクト,地球環境問題への対応,生分解性プラスチックの立ち上げなど,バイオ産業施策に携わる.文部省への出向,オーストラリア勤務などを経て,2001年経済産業省の研究開発担当企画官として,医療福祉機器の研究開発を担当.2003年知的基盤課長として臨床検査の標準化を推進.2005年9月より現職.東京工業大学工学部,京都大学医学研究科で非常勤講師.

大学の研究成果の社会還元が問われるようになってから,ライフサンエンスの分野でも産官学連携が推し進められた.多くのバイオベンチャーの誕生は,行政面での取り組みや研究者レベルの意識の変化を象徴しているが,一方で現場の研究者からは一時「バイオブーム」とまで言われたバイオ産業への不安の声も聞かれる.本対談では,行政官,医学研究者のそれぞれの見地から,医療応用面でのバイオ産業の現状と問題点,これから目指すべき道筋について議論していただいた.(編集部 蜂須賀修司)

●日本のバイオは,すでにキャッチアップの時代ではない

川上:徳増課長は,現在経済産業省(以降,経産省)製造産業局,生物化学産業課にいらっしゃいますね.ライフサイエンスにかかわった経緯を教えて下さい.

徳増:私が最初にライフサイエンスとかかわったのはちょうど17,18年前で,経産省で初めて今の生物化学産業課を作る際にその設立に携わりました.基本的にはライフサイエンスを世の中に役立てていくことについてライフワーク的に取り組んでいて,2005年9月から今のポジションにいます.

川上:一般にライフサイエンスというと,生命工学,農学,食品などがありますが,その中でも特に医療あるいはヘルスケアにも,関与されていますね.徳増課長としては,どのような中長期的な展望をお持ちですか?

徳増:医療や健康に関しては,まさに産業面での応用という主体が非常にはっきりしています.経産省としてやるべきことは,やはり法律などに基づくルール作りです.通常,ルールをしっかりしてあげれば産業が自律的に回っていくことが多いのですが,ライフサイエンスに関してはもう一押し政府内の枠組みがないとなかなかうまくいかないという問題点があるので,さらにその辺が重要だと感じてます.

(中略)

●ヘルスケアというライフサイエンスのもう1つの出口

川上:時代は確実にバイオの産業化という方向に移りつつあります.しかし日本では医療の分野はさまざまな社会的な問題や特異性がありますので,そのなかでどういう形で社会的な課題とその産業化をバランスよく導いていくかが非常に大きな課題ですね.

徳増:実は,その部分については2つの考えをもっています.1つは,社会全体の仕組みを変えていくこと.これには国民の理解もいりますし,さまざまな関係者の間で議論されていくべき話で,どのくらい時間がかかるかわかりません.もう1つは,医療という側面だけではなく,「ヘルスケア」にもライフサイエンスの出口を見出すことです.日本は世界に冠たる健康国家で,国民が生まれてからずっと健康診断を受けている国は他にないのですが,その分野の産業や情報の有効な活用が進んでいるかというと,そうでもありません.まだまだ考えていく余地がありますので,そういう分野での出口も十分あり得ると思っています.

(続きは本誌で)


バイオテクノロジー ジャーナル2006年5-6月号掲載
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