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※ご所属は最新インタビュー掲載時のもの

医学との連携が導く,創薬開発の新時代
医療ニーズを的確に捕える新しい産学官連携と,加速する新技術導入,アウトソーシングによる効率化戦略

竹中登一
竹中登一(Toichi Takenaka)
アステラス製薬株式会社 代表取締役共同会長

1964年岐阜大学農学部獣医学科 卒業.1964年山之内製薬株式会社 中央研究所 入社.1977年中央研究所薬理生化学研究部 主任研究員.1989年開発本部開発部長.1990年中央研究所副所長.1993年取締役 創薬研究本部長.1997年常務取締役 創薬研究本部長 兼 臨床開発本部長. 1999年専務取締役. 2000年代表取締役 社長.2005年アステラス製薬株式会社 代表取締役社長.2006年より現職.1980年医学博士号取得.

世界的に相次ぐ合併で誕生したメガファーマとの競争,医療費削減を目指した国策,まもなく向かえる2010年問題.日本の製薬業界は,かつてない困難な状況に直面している.今回,2005年4月に山之内製薬と藤沢薬品工業の合併により誕生したアステラス製薬の共同会長である竹中登一氏に,合併後の評価とこれからの創薬が目指す道筋について伺った.また竹中会長は医学博士で,研究者ご出身の経営者である.研究経験者としての経営,ポスドク問題や研究人材についてもユニークなご意見を伺ったのでご紹介する.(編集部 蜂須賀修司)

●選択と集中で合併効果は2倍以上

―山之内製薬と藤沢薬品の合併から数年が経ちましたが,その効果をどのように評価していますか?

合併する以前,我々が単独で研究開発を行っていたとき,両社ともに基礎研究や臨床開発などを含めて約600億円くらい研究開発費として使っていました.600億円というと国際的な競争を勝ち抜くには,十分ではありません.なぜかというと,研究開発はスピード競争ですからある時期に良い研究があったら,並行して研究を走らせて時間短縮をする必要があります.

(中略)

研究開発(ディスカバリーやディベロップメント)を行う際に複数のテーマを同時に進めるには,臨床開発などでかかる費用が膨大ですので研究開発費が最低1,000億円は必要です.研究開発は非常に成功確率が低いので,そこで時間をかけてしまうと,十年間の開発期間がみな無駄になってしまう.それよりも両社の600億円を足して1,200億円にして複数のテーマを一気に進める.時間を短縮し,素早い判断を行うことで,研究効率は良くなります.

―2社が1つになることで,企業風土や文化の違いよる問題はありましたか?

企業風土とか文化についてはよく質問を受けますが,非常にセンチメンタルな言葉で,サイエンスにはあまり関係ないと思います.

合併が決定してから1年ほど期間がありました.それから社員が互いに会っていろいろ話す訳ですけど,使ってる用語も若干違っていたりすることはあって,そういう時は辞書を作ったりして対応していましたね.ですが,研究者と話してみると,あまり違和感はないと言ってます.

(中略)

●プロセスの効率化とスピード化を目指した提携戦略

―竹中会長は研究者ご出身の経営者でいらっしゃいますが,研究出身ということの「強み」はありますか?

私が本当に研究をやっていたのは40歳前後までです.社長になったのが58歳の時ですから,その間もちろんR&Dをみていましたけれども,現在まで一貫して,経営戦略的な思考の方が大きくて,細かい戦術的な思考というのはしていません.かえって,昔私が創薬をやっていたというような顔をして,科学データとか科学の考えに対して口を出したらめちゃめちゃになると思うんです.強みが逆に会社を弱めてしまうということになります.

(中略)

―他企業とのアライアンスについてはどのようにお考えですか?

他社との提携には積極的です.またそのような部門ができていますので,研究方針に合わせていろんな提携先を捜しています.

製薬企業として一番重要なことは,バランスがとれた一連の流れのバトンタッチです.ターゲットを見つける探索からその後の一連の研究開発段階において,そこで欠けているものがあったら研究者はここと組みたいという提案をしてきます.

(中略)

―日本のベンチャーに対してはどのように評価されていますか?

我々からスピンオフしてバイオベンチャーをやっている会社も幾つかあって,いろいろ情報交換をしたりもしています.いまのところ日本のバイオベンチャーには残念ながら面白いものが少ないですね.海外と比べると日本のバイオベンチャーの規模がちょっと小さ過ぎるんです.だから彼らが活躍したくても,人材面や資金面が少ないから動きが非常にスローです.

(中略)

●医学との連携がこれからの新薬開発の道筋

―京都大学や東京大学などとの連携も報道されていますね.

いまアライアンスということでは,我々は独立行政法人化された大学に魅力を感じています.これまでは産学連携というと,製薬業界ではコンソーシアム方式でやることが多かったと思います.

今回,文部科学省の「先端融合領域イノベーション創出拠点の形成」プログラムに採択されて,京都大学医学部の研究棟内に「アステラス創薬ラボ」を開設することになりました.これには2つの精神があります.

1つは薬の発明は1〜2年ではできませんので,長期間の提携ができるようなベースをつくって,両方がwin-winの関係でいきたいと思っています.中間評価がありますが,トータルで10年のプログラムとなります.2つ目は,京都大学とアステラスできちっとしたシンプルな協働関係でいきたい,ということです.

(中略)

―最も期待しているのはどのようなことですか?

私は,これからの薬はやはり現在治療薬がない「アンメットニーズ」といった領域をやっていかなければいけないと考えています.例えば,高脂血症では患者さんが非常に多くて,弊社の治療薬リピトールは世界で1兆円以上も売れているわけですけど,今後さらにコレステロールを下げる薬を作る必要はありません.血圧を下げる薬もミカルディスで十分です.それらは2010年前後にはほとんど大型製品のジェネリックが発売になってしまうので,その後のために我々は新しい薬を開発する必要があります.

(中略)

―最後に,ポスドクの就職の問題が議論されていますが,どのようにお考えですか?

先日東京大学大学院の修士課程の口頭試問があって40人くらい面接しましたが,これが非常に面白いんです.東京大学だけでなくて他の大学からも沢山応募がありますから.ただその中でなんとなく残念だったのは,「まだ私の将来は何も決めてない,修士にいって私の将来を見定めたい」という学生が何人かいたんですね.本当は試問中にコメントを言ってはいけないんですが,「いくら人生が長くなったと言っても,何でも自分達の結論を後ろにもってきすぎるんじゃないの? はやく決めなさいよ」と,こういう言い方をしてしまいました.よく聞いてみると,「理科が面白くて生物をやるようになった」ということでした.それならば早くその方向を選んで,それに向けて最短を決めて突き進んで,それで面白くなくなったら,もういちどやり直したらいいと思うんです.

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バイオテクノロジー ジャーナル2007年11-12月号掲載
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