バイオテクノロジージャーナルオブジェ
トップページバックナンバー本誌の特徴書籍購入について
メニュー区切り
トップページ > キーパーソンインタビュー > 上野幹夫
− INDEX −
 

※ご所属は最新インタビュー掲載時のもの

躍進する抗体医薬!
〜中外製薬の研究開発と新たな産学連携の試み

上野幹夫
上野幹夫(Motoo Ueno)
中外製薬株式会社 代表取締役副社長

1984年 中外製薬株式会社入社.1991年 ロンドン駐在事務所長.1993年 取締役就任.1995年 臨床開発本部長.1996年 研開統轄副本部長.1997年 常務取締役就任.1998年 常務執行役員医薬事業本部副本部長.2000年 常務取締役就任.2002年 取締役副社長就任.2004年 代表取締役副社長執行役員就任.

本年6月13日,中外製薬株式会社は国産初の抗体医薬品『アクテムラ®(一般名:トシリズマブ)』を発売した.ヒトIL-6受容体に対するモノクローナル抗体で,希少疾病であるキャッスルマン病に効く治療薬として世界で初めて承認されたが,今後さらにIL-6にかかわるさまざまな疾患への適応をめざして,臨床試験を進めている.純国産のバイオシーズが産学連携を通じて製品化された点も非常に興味深い.そこで,抗体医薬開発に精力的に取り組む中外製薬の代表取締役副社長 上野幹夫 氏に,抗体医薬開発への取り組みと新薬開発の経緯,またこれからの医薬品開発戦略について伺った.(編集部 蜂須賀修司)

● 国産初の抗体医薬発売に至る医薬品開発への取り組み

―抗体医薬の開発を進められた経緯を教えてください.

最初のきっかけは,1970年代の後半になります.東京大学と実中研(実験動物中央研究所)と共同で,ヒト血清中に存在が予測される顆粒球の増殖を促す生理活性物質(サイトカイン)であるG-CSF(顆粒球・コロニー刺激因子)の研究を始めました.1985年に,G-CSFの遺伝子のクローニングに成功したことで,事業化に向けたタンパク製剤の製造技術の確立を目的とするプロジェクトがスタートしました.またそれに前後して,米国のGenetics Institute社への委託研究により1984年にエリスロポエチン(EPO)に関するライセンス契約を締結しました.このEPOのクローニングを契機に,タンパク製剤製造技術の自社内での構築に向けた研究が始まったわけです.1986年にEPO,1987年にはG-CSFのフェーズIを開始して,それぞれ1990年にエポジン®(エポエチンベータ:遺伝子組換えヒトEPO製剤),1991年にノイトロジン®(レノグラスチム:遺伝子組換えヒトG-CSF製剤)として発売いたしました.これがわれわれにとって最初のバイオ医薬品となりました.さらに,サイトカインの研究からサイトカインの機能阻害による治療薬の可能性を学び,抗体による治療の可能性を検討することにつながっていったわけです.

抗体による治療を具現化するために,いろいろな共同研究やアライアンスを通して,抗体医薬を市場に提供するための技術基盤や体制を社内に確立してきました.1989年に英国のMRC(メディカル・リサーチ・カウンシル)に研究員を派遣して,モノクローナル抗体のヒト化技術を研究・習得して,1990年にはこのMRCよりヒト化技術のライセンス契約を受けました.その後,1995年に米国のIDEC社から抗体の大量生産の技術導入をして,本格的に抗体医薬生産の体制構築に進んだわけです.最近では,2002年に英国のCAT(ケンブリッジ・アンチボディ・テクノロジー)社からヒト抗体ライブラリーの導入を,米国のAbgenix社とヒト抗体産生マウスを用いた共同研究契約を締結しました.

このように,バイオ医薬の第一世代であるEPOやG-CSFの開発を通して得た技術とノウハウを抗体医薬の研究に活かしたことで,本年6月13日に国産初の抗体医薬品『アクテムラ®(一般名:トシリズマブ)』として発売することにつながりました.

―MRAの共同開発はどのようなきっかけで始まったのですか?

大阪大学の岸本先生のグループでは,IL-6の発見やその機能に関する研究で,画期的な研究を進めておられ,1986年頃から,中外製薬からも研究員を派遣してIL-6受容体に関する共同研究を始めておりました.1987年に阪大グループによりそのIL-6受容体遺伝子がクローニングされ,さらにわれわれの共同研究の中から創出された抗ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体の医薬品化を中外製薬が担当することになったのです.阪大グループのIL-6に関する一連の研究成果とわれわれの抗体工学の技術が結びついて,MRAという抗体医薬品が生まれ,実際の臨床への応用に向けさらに両者で協力して,この度やっと発売という形で世の中に日の目をみることができました.

今回はキャッスルマン病を対象としていまして,オーファン指定を受けています.それ以外の適応症としては,現在フェーズIIIにある関節リウマチ(RA)について日本,欧州,米国で臨床試験をしています.MRAの海外開発についてはロシュ社と共同開発を進めています.

また,IL-6の免疫システムに関係する疾患として関節リウマチの他,若年性の関節リウマチ(JIA),全身性のエリテマトーデス(SLE),多発性骨髄腫(MM)などにも適応できるだろうということで開発を進めています.

続きは本誌でご覧下さい


バイオテクノロジー ジャーナル2005年9-10月号掲載
(C) YODOSHA CO., LTD. All Rights Reserved.
羊土社ホームページへ