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新科学技術の社会受容と規制

吉倉 廣
吉倉 廣(Hiroshi Yoshikura)
国立感染症研究所名誉所員

東京大学医学部細菌学教授(1981〜1998年),国立国際医療センター研究所所長(1999〜2001年),国立感染症研究所所長(2001〜2004年)等を経て,2007年現在,厚生労働省食品安全部参与,ならびに,OECD科学政策委員会バイオテクノロジー部会副議長,コーデックス組み換え食品タスクフォース議長.

現在,私は文部科学省,経済産業省,厚生労働省でのDNA組換えに関する審査にかかわっていますが,研究所や大学の時代はネズミの白血病の研究をしていました.組換え技術に関する開発と規制にかかわるきっかけとなったのは,1991年頃にOECDのバイオテクノロジー部会に参加したことです.DNA組換え作物の食品としての安全性議論で,実質的同等性(substantial equivalence)という概念が提唱された頃でした.

● 規制が求められる理由

DNA組換え技術については,「自然界では起こらない現象を用いて生物を改変し,神を演じる行為だ」,という意見が出て,これが人々に不安を広げました.その背景には,水銀汚染による水俣病,HIVに汚染した血液製剤,肉骨粉による狂牛病,核開発などに関係した科学技術への不信感が世間にあったことがあります.

(中略)

科学とは元来,それまでの常識が変わるような発見によって進歩する性質を持っています.その発見は,従来の常識を破るほど,それだけ大きな前進があるわけですから,このような事態は当然起こることです.しかし,こういった事件で科学者の言葉を信用しないという風潮,反科学の風潮が世界に広がりました.

● 規制の変遷と課題

例えばDNA組換えについては,米国の指針があり,我が国でも同様の指針ができていました.しかし2004年にカルタヘナ議定書に日本を含め約140カ国が批准したことにより,これが発効し,締結国は「指針」ではなく「法律」の下で「生きた組換え生物(LMO)」を取り扱うことになりました.

一般に指針と法律のどちらが良いのかという問題があります.

(中略)

例えば,サウジアラビアの科学者が,ある米国の科学者にインフルエンザウイルスを送り,検査を依頼したところ,この米国の科学者はバイオテロ法の輸入規制の条項に抵触し,250,000ドルの罰金と6カ月の自宅禁固刑になったという事例があります.

指針は罰則がないから効果がないと言う人もいますが,指針は柔軟なケースバイケースの適用が可能です.

● 科学と規制のバランス

法律ができてしまえば科学者であっても従わなければなりません.しかし,一人の科学者が法律を完全に理解し,常時,法律に従って自分の行動をチェックすることは,実際上それほど容易ではありません.ではどうしたら良いかということになりますが,1つの方法は,大学や会社の中でそのようなことに対応する委員会などの組織を作り,研究について法律や指針と照らして違反がないか,チェックすることかと思います.

続きは本誌でご覧下さい


バイオテクノロジー ジャーナル2007年1-2月号掲載
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