第2回 審査区分の選び方(2025.07.31更新)

 応募種目の選択とともに,審査区分(応募分野)の選択は非常に重要だ.平成30年度の公募から,それまでの審査で使われていた「系・分野・分科・細目名」といった審査分野の分け方ではなく,「小区分・中区分・大区分」で構成される審査区分で審査が行われている.この「審査区分」はおおむね5年ごとに見直しが行われることになっている.令和5年度はその見直しの時期にあたり,令和4年3月に「審査区分表」が変更された.新しい「審査区分表」は令和5(2023)年度の科研費の応募から適応されている.キーワードが記載された審査区分表は,科研費の公募要領で確認できる.また,審査区分の一覧だけならば日本学術振興会ホームページの「科学研究費助成事業」のサイドバーの(ウインドウが小さいときは右上の「MENU」に隠れている)「審査・評価関係」→「審査区分表等」からダウンロードできる.

 審査区分は以下のように応募種目によって異なる.

基盤研究(B, C),若手研究:323の「小区分」

基盤研究(A),挑戦的研究(開拓・萌芽):64の「中区分」

基盤研究(S):11の「大区分」

 キーワードが記載された審査区分表を見ながら,申請書の内容にふさわしく,正確に審査してくれる領域に応募すること.自分の所属学会の領域,所属講座の分野に応募しなければいけないということはない.

審査区分を選ぶ際の注意点

 注意すべきことは,応募する研究内容に対して,いくつか異なる審査区分の候補があることだ.例えば,「ペプチド・ホルモンに関する研究」の内容で応募するときには,

①小区分:43030 「機能生物化学関連」生理活性物質

②小区分:54040 「代謝および内分泌学関連」内分泌学,神経内分泌学,生殖内分泌学

などの小区分が候補になるだろう.また,このペプチド・ホルモンの機能を調べる研究計画ならば,その他にも

③小区分:46010 「神経科学一般関連」神経化学

④小区分:46030 「神経機能学関連」神経生理,神経薬理,情報伝達

⑤小区分:47010 「薬系化学および創薬科学関連」医薬品探索,生体関連物質

⑥小区分:47040 「薬理学関連」薬理学,シグナル伝達

⑦小区分:48020 「生理学関連」一般生理学,環境生理学

⑧小区分:48030 「薬理学関連」分子細胞薬理,行動薬理,創薬薬理学

など多くの小区分を候補としてあげることができる.どの小区分に応募するか迷うことが多いが,申請書の研究計画の内容をよく検討して最適な審査区分を選ぶことだ.

 なお,将来的には区分の再編が行われて,より少ない区分数になることが発表されている.自身の研究分野以外の審査委員も加わることになるので,異なる分野の審査委員にも理解してもらえるような申請書を作成することが,より必要になることだろう.

データベースを使って最適な審査区分を選ぼう

 最適な審査区分を選ぶには,「KAKEN(科学研究費助成事業データベース)」を使って,応募しようとする審査区分でどのような研究課題が採択されているか,また自分の研究計画のキーワードで検索したときにヒットした採択課題がどの審査区分に応募したものであるのかを調べて,審査区分を決定するのがよい.科研費公募要領の審査区分表にある「内容の例」(キーワード)で審査区分を選んでもよいが,採択課題を調べて審査区分を選ぶ方が自分の研究課題にふさわしい区分がわかる.平成30年度の制度改革でこれまでの「応募分野」から「審査区分」という形になったが,内容自体はそれほど変わっていないので平成29年度公募以前のデータからも傾向をつかむことができる.

 また応募しようとする分野の過去の審査委員を調べて参考にするのもよい.自分の研究をよく知っている審査委員のいる分野は的確な審査が期待できる.

細目で異なる採択件数,採択率は30%前後

 平成30年度の公募から応募分野は審査区分とよばれるようになり,大区分→中区分→小区分と分かれている.ここでは令和7年2月現在の時点で公開されている,令和6年度の細目ごとの応募件数と採択件数をみてみよう.

 日本学術振興会科学研究費助成事業のホームページのサイドバー(あるいは右上の「MENU」)「関連データ」→「科研費データ」→「Ⅲ.科研費の配分状況」→「(1)研究種目別配分状況」の「2)審査区分別配分状況」からデータをみることができる.ここに区分別,研究種目別の詳細な応募と採択状況の一覧表がある〔令和6年度採択の基盤研究(C)について,表1には新規採択課題の採択率上位30件を,表2には採択率下位30件を,そして表3には小区分で審査される種目の応募件数の上位30件を抜粋して示した〕.

小区分 応募件数 採択件数 採択率(%)
02080:英語学関連 109 35 32.11
02020:中国文学関連 47 15 31.91
02070:日本語学関連 94 30 31.91
02010:日本文学関連 198 63 31.82
05050:刑事法学関連 79 25 31.65
07100:会計学関連 163 51 31.29
05040:社会法学関連 48 15 31.25
05060:民事法学関連 170 53 31.18
02030:英文学および英語圏文学関連 209 65 31.10
05020:公法学関連 123 38 30.89
04020:人文地理学関連 95 29 30.53
01020:中国哲学,印度哲学および仏教学関連 59 18 30.51
01010:哲学および倫理学関連 148 45 30.41
02060:言語学関連 254 77 30.31
60020:数理情報学関連 43 13 30.23
01050:美学および芸術論関連 139 42 30.22
02100:外国語教育関連 510 154 30.20
11020:幾何学関連 173 52 30.06
02050:文学一般関連 80 24 30.00
03020:日本史関連 204 61 29.90
09040:教科教育学および初等中等教育学関連 579 173 29.88
09010:教育学関連 472 141 29.87
12030:数学基礎関連 57 17 29.82
08010:社会学関連 353 105 29.75
09080:科学教育関連 286 85 29.72
11010:代数学関連 203 60 29.56
05070:新領域法学関連 88 26 29.55
58050:基礎看護学関連 505 149 29.50
06010:政治学関連 173 51 29.48
10020:教育心理学関連 173 51 29.48
表1 令和6年度基盤研究(C)の新規採択課題の採択率上位30件
日本学術振興会公表の「令和6(2024)年度配分結果集計表(審査区分別)」をもとに作成.表2と合わせてみると新規採択率は応募区分によって8〜9%もの差がある.特に人文社会学系の区分で採択率が高い傾向にある._は理系種目.

 この一覧表を見ていくと,応募件数と採択件数は審査区分ごとにかなり違っていることがわかる.また科研費の審査区分別の採択件数は,区分ごとの応募件数にほぼ比例して決まってくるため,採択率はどの区分でもほぼ同じである(表3).そのため科研費の区分別の採択件数は,必ずしもその区分の現時点での重要性によるものではない.もちろんその研究分野が活発であれば研究者が多く,応募件数も多いだろうから,採択件数も多い.

小区分 応募件数 採択件数 採択率(%)
33010:構造有機化学および物理有機化学関連 103 26 25.24
49070:免疫学関連 103 26 25.24
49010:病態医化学関連 115 29 25.22
49030:実験病理学関連 127 32 25.20
14030:プラズマ応用科学関連 24 6 25.00
26050:材料加工および組織制御関連 120 30 25.00
29010:応用物性関連 56 14 25.00
30010:結晶工学関連 44 11 25.00
34020:分析化学関連 104 26 25.00
35010:高分子化学関連 48 12 25.00
35030:有機機能材料関連 44 11 25.00
36010:無機物質および無機材料化学関連 68 17 25.00
37010:生体関連化学 56 14 25.00
39010:遺伝育種科学関連 56 14 25.00
43030:機能生物化学関連 112 28 25.00
44010:細胞生物学関連 128 32 25.00
44030:植物分子および生理科学関連 112 28 25.00
44040:形態および構造関連 48 12 25.00
46020:神経形態学関連 52 13 25.00
48040:医化学関連 96 24 25.00
64030:環境材料およびリサイクル技術関連 68 17 25.00
57020:病態系口腔科学関連 97 24 24.74
49060:ウイルス学関連 89 22 24.72
17050:地球生命科学関連 49 12 24.49
38010:植物栄養学および土壌学関連 33 8 24.24
60080:データベース関連 29 7 24.14
43050:ゲノム生物学関連 50 12 24.00
14010:プラズマ科学関連 17 4 23.53
29030:応用物理一般関連 17 4 23.53
45050:自然人類学関連 13 3 23.08
表2 令和6年度基盤研究(C)の新規採択課題の採択率下位30件
日本学術振興会公表の「令和6(2024)年度配分結果集計表(審査区分別)」をもとに作成.下位30件はすべて理系の小区分である.

 そしてこの一覧表で重要な点は,採択率はどの小区分においても30%前後であるが,理系種目では低く文系種目では高い傾向にあることだ.例えば基盤研究(C)において採択率の一番高い「英語学関連」の32.11%と,下位の採択率が23.08%〜24.00%の区分とでは,実に8〜9%もの違いがある.これは種目ごとに応募件数あたりの総配分額がまず決められ,そのなかで採択課題が決定されるためである.すなわち,決まられた予算のなかでは,1採択課題あたりの配分額が低めの文系種目の方が採択件数が多くなり,配分額が高めの理系種目の方が採択件数が少なくなるためと考えられる.また審査において「人文学,社会科学の研究の振興のための調整」も行われることも理由の1つであろう.つまり,語弊があるかもしれないが,文系種目の方が理系種目よりも採択されやすいということだ.実際に令和6年度の新規採択課題において,採択率上位30件の中で理系種目は6種目だけである(表1).

 ホットな研究分野は当然,応募件数も多いと予想されるが,令和6年度の小区分の種目〔基盤研究(B)と(C),若手研究〕の合計において応募件数が多い上位10件は(表3),「リハビリテーション科学関連」(1,071件),「栄養学および健康科学関連」(1,070件),「高齢者看護学および地域看護学関連」(967件),「放射線科学関連」(966件),「スポーツ科学関連」(866件),「消化器内科学関連」(748件),「整形外科学関連」(742件),「循環器内科学関連」(725件),「教科教育学および初等中等教育学関連」(715件),「社会福祉学関連」(700件),となっている.

 もちろんこれらの区分でも,応募件数が多くなるほど,採択件数が多くなっている.

異分野への応募

 ストレートに自分の研究分野で勝負するのもいいが,関連があるが少しだけ離れた審査区分に応募するのも1つの戦略だ.ともかく,申請内容の研究テーマを考えて最適の審査区分に応募するのがよい.たとえ自分には異分野で知り合いがいなくても,内容がしっかりしてさえいれば大丈夫であり,かえってその審査区分では新鮮なテーマに映るのか,案外採択されることが多い.

 例えば私は「内因性の成長ホルモン分泌促進因子グレリンはドーピングの禁止薬物の対象となるか?」という研究課題で,「スポーツ科学」分野(平成30年度の公募より前の公募にあった)で採択されたことがある.これは,私にとってはまったく知り合いもいない異分野であるが,内容を十分に理解してくれると考えてこの分野に応募し採択された.私のまわりにも,科研費をずっと出していたけれど採択されず,内容はほとんど同じだが審査区分を変更しただけで採択されたという例が少なからずある.

 また,医学博士(MD)でない研究者でも,臨床医学分野に応募して採択されることも十分に可能だ.例としてあげると,知り合いのHくんはMDではないが,骨形成タンパク質を研究していて,当初基礎研究の分野に応募していたが採択されず,整形外科分野に応募先を変更して採択され,以後継続して循環器内科学,内分泌学などの臨床医学分野で採択されている.

 くれぐれも申請内容からよく考えて審査区分を検討しよう.

基盤研究(B)基盤研究(C)若手研究合計
小区分応募件数採択件数応募件数採択件数応募件数採択件数応募件数採択件数採択率(%)
59010:リハビリテーション科学関連107316531803111271,07133831.56
59040:栄養学および健康科学関連17248716193182721,07031329.25
58080:高齢者看護学および地域看護学関連73227542181405996729930.92
52040:放射線科学関連88256411742379896629730.75
59020:スポーツ科学関連115325581571937986626830.95
53010:消化器内科学関連38104821262289274822830.48
56020:整形外科学関連53154911321988174222830.73
53020:循環器内科学関連50144631252128572522430.90
09040:教科教育学および初等中等教育学関連6319579173733371522531.47
08020:社会福祉学関連4513571168843770021831.14
52050:胎児医学および小児成育学関連65184901311315268620129.30
55020:消化器外科学関連40114831271626568520329.64
58010:医療管理学および医療系社会学関連63184601281536467621031.07
02100:外国語教育関連6219510154743264620531.73
09070:教育工学関連6018508144642863219030.06
58070:生涯発達看護学関連4213505146803462719330.78
56040:産婦人科学関連41114361161495862618529.55
50020:腫瘍診断および治療学関連8123371981656761718830.47
58050:基礎看護学関連309505149813561619331.33
09010:教育学関連6620472141683060619131.52
07080:経営学関連69214341261024460519131.57
57060:外科系歯学関連46133931061616460018330.50
58060:臨床看護学関連3912465137783458218331.44
50010:腫瘍生物学関連5214347931415654016330.19
09030:子ども学および保育学関連5015400117662851616031.01
10030:臨床心理学関連5516343961014349915531.06
58030:衛生学および公衆衛生学分野関連: 実験系を含まない7021316851134449915030.06
47060:医療薬学関連4412333891124548914629.86
56050:耳鼻咽喉科学関連28836097983948614429.63
56030:泌尿器科学関連216351921064347814129.50
表3 令和6年度小区分で審査される種目(新規分)の応募件数上位30位
日本学術振興会公表の「令和6(2024)年度配分結果集計表(審査区分別)」をもとに作成.小区分で審査される「基盤研究(B,C)」「若手研究」の3種目の集計.ただし「08010:社会学関連」については「80030:ジェンダー関連」と合同審査区分となっているため,ここでは除いてある.おそらく応募件数の上位30件に入ると思われる.

※本コーナーは『科研費獲得の方法とコツ 第9版』(2025年6月発行)から一部抜粋・改変し,掲載したものです.記載内容は発行時点における最新の情報に基づき,正確を期するよう,最善の努力を払っております.しかし,本記事をご覧になる時点において記載内容が予告なく変更されている場合もございますのでご了承ください.

科研費獲得のための応募戦略:目次

児島 将康

(久留米大学客員教授,ジーラント株式会社代表取締役)

書籍「科研費獲得の方法とコツ」「科研費申請書の赤ペン添削ハンドブック」著者.毎年の科研費公募シーズン前後に20件近くの科研費セミナーで講演し,理系・文系を問わず申請書の添削指導を行っている.令和6年4月より研究者を支援するジーラント株式会社(https://g-rant.org/)を立ち上げ,活動している.

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